「風が吹けば桶屋が儲かる」
「論理的な飛躍」があるのか無いのかよく分からないが、何となく言い訳チックなコトワザだ。
増えたネズミで衛生状態が悪くなって、人が死ぬから棺桶屋が儲かるってパターンなら分かるけどさ……。
そもそも、風が吹く(寒くなる)
→寒いので風呂に入る人が増える
→桶の需要が高まる
→桶屋が儲かる
で良いじゃんwww
この言葉ができたのは、江戸時代と言われている。
この論理が飛躍しているコトワザは誰がいい始めたのか?(語源・由来)
そして、実際に風が吹いて桶屋が儲かる確率ってどれだけだよ……?
……調査し始めたら、次の書籍「「風が吹けば桶屋が儲かる」のは0.8%!?: 身近なケースで学ぶ確率・統計(丸山健夫著)」に詳細に記載があった。
結果として書籍の内容を載せただけ……にはしたくないので、毎回のことながら原文も確認している。
「くずし字」は読めないけどね。
因みに「大量のページ数」と「くずし字が読めない僕」がどうやって探しているか?というと以下の2つのテクノロジーを駆使している。
この技術を持っている事が僕のアドバンテージだ。
ことわざの時代背景
ざっとネットで調べた内容は次の通り。
江戸時代の町人文学、浮世草子の気質物が初出とされる。
明和5年(1768年)開版の無跡散人著「世間学者気質」巻三「極楽の道法より生涯の道法は天元の一心」において、三郎衛門が金の工面を思案するくだりがある
が、ネットよりも前述の書籍(丸山健夫著)の方が詳細で、時代を遡る形で説明されている。
因みに、丸山健夫氏は「もともと『箱屋』だけど、『徳川吉宗』の孫が『桶屋』に話を作り変えた」という推測をしている。
東海道中膝栗毛(享和3年:1803年)
東海道中膝栗毛(二編下)では「箱」になっている……らしい。
蒲原の木賃宿に泊まった時に、同宿のおちぶれた男が身の上話として、この話を持ち出す。
以前に江戸で初夏から秋にかけて長く強い風が続いたので、全財産をはたいて「箱屋」をやってみたけど失敗し、無一文になった。
という話。
……これは比較的新しいので原文は確認しない。
明君白川夜話(天明2年:1782年)
八代将軍「徳川吉宗」の孫、老中「松平定信」は白河楽翁とも呼ばれ、読書家文筆家でもあった。
定信の若い時の作品と推定されるものに「明君白河夜話」がある。
人生の教訓のなるエピソードを解説し、それに対するコメントが入るという形式を繰り返す。
その1つのエピソードに対するコメントの中で「桶屋」の話が出てくる……らしい。
そして丸山健夫氏は「箱」から「桶」に文章が変わった理由を次のように推測している。
確かに、衣装ケースなどの木製の箱がネズミに少々かじられても、機能的には我慢できる。
しかし、同じ木工製品でも、桶となれば、液体を入れることが多いので、使いものにならなくなる。
庶民の生活になくてはならない身近な日用品でしかも安価だから、おり大きな確率で修理や買い替え需要に結びつく。定信や大変な秀才であったから、機転をきかせて、よりインパクトのある「桶屋」に改良するくらいは朝飯前であろう。
調べた限り「白河夜話」や「明君白河夜話 」は別名で、「雨窓閑話」が統一名称っぽい。
出版に際して、何かの時代背景が影響したのか「松平定信著作ではない」という情報がもたらされ、結局「白川」という言葉を削除して「雨窓閑話」に変更された。
「雨窓閑話」は下記から画像でダウンロード可能なので、落としてみた。
ここから原文を探すだすのは毎回正直しんどい……
タイトルは「進喜多郎が僕才六が事桶屋物語の事(進喜多郎という人の使用人の才六の事と、桶屋物語の事という意味)」で画像の42枚目にあった。
原文は61枚目にかかれており、内容は次の通り。
桶屋が曰 大風がふく時は砂石散乱して、往来の人眼中に入らば必盲人出来べし。
然ば琴三味線屋祭昌して猫を多く取て皮を張べしさすれば世上猫ふくなり。
鼠、おのづからあれさはぎて、桶をかじりなん。
事案の内なり。其時に至ては我等が商売の益となる
因みにこの節の内容は「段取りや工夫が大切だけど、行きすぎて回りくどいと駄目だ」という事。
世間学者気質(明和5年:1768年)
Wikipediaには、江戸時代の浮世草子「世間学者気質」巻三(無跡散人著、明和5年、1768年)が初出だと書いてある。
この書籍では「桶」のかわりに「箱」になっている。また、「風が吹けば箱屋が儲かる」などの成句の形では書かれていない……らしい。
具体的には「世間学者気質」巻之三「極楽の道法より生涯の道法は天元の一心」に、内容がある。
「今日の大風で土ほこりが立ちて人の目の中へ入れば 世間にめくらが大ぶん出来る そこで三味線がよふうれる そうすると猫の皮がたんといるによつて世界中の猫が大分へる そふなれば鼠があばれ出すによつて おのづから箱の類をかぢりおる 爰で箱屋をしたらば大分よかりそふなものじやと思案は仕だしても 是も元手がなふては埒明ず」
因みに「桶屋」って何?
桶を生産する職人。
独立した職人となったのは15世紀のことで、容器として庶民生活の必需品となってきたため。
また、17世紀からは、製造と販売を兼ねる居職の桶屋が成立し、城下町などでは集住して桶屋町をつくっていた。
因みに「箱屋」って何?
箱の製造業者。
「指物師」とも言い、木材加工品製造販売業。
「指物」とは、外側に組み手を見せず、金釘も使わずに組み立てられた木工品のこと。
巷談奇叢(奇談一笑)(明和5年:1768年)
西田維則が「巷談奇叢」として著し、亡くなってから友人により1768年に出版され、その後「奇談一笑」として伝わる漢文体の本もある。
この本にも「箱匠喜旋風」という題で「箱匠」になっている。
と書いてあるが、今度は漢文体か……。
「佐賀大学附属図書館 貴重書デジタルアーカイブ」の8枚目に原文があった。
笑話出思録(宝暦5年:1755年)
丸山健夫氏の書籍に「笑話出思録」では「ハコモノヤ」とフリガナがある……と書いてある。
「笑話出思録」は民間に流布していた笑話の漢訳。明治書院「精選 言語文化」などの教科書でも取り上げられてる。
で、原文は21枚目にあった。
あれ?「ハコモノヤ」じゃなくて「サシモノヤ」になってるけどな?
そして、これは別に「風が吹けば桶屋が儲かる」とは直接は関係ない。
確率・統計的に「風が吹けば桶屋が儲かる」確率は?
丸山健夫氏の著書によって「風が吹けば桶屋が儲かる」の語源を詳細に知ることができた。
忘れてしまいそうになるが、この書籍のテーマは「統計学」。
「風が吹けば桶屋が儲かる」確率を統計的に求めているので、最後に紹介しておく。
気象庁の1961年から2005年までの45年間の地上観測データを利用。
江戸(東京)では
- 最大風速10m以上になる日数が、観測日数1万6436日のうち、1452日で8.8%
- 最大風速5m以上になる日数が、観測日数1万6436日のうち、1万2969日で78.9%
それぞれのステップは、正確な確率で実現するための統計的な情報は、まったくと言ってよいほどない状態だ。
確率がかなり大きそうなステップもあるし、そうでないものもある。では、こんなときはどうすればよいだろう。
ふんふん。
どうするの?
そのような場合は、一つの方法として、それぞれのケースに均等に確率を割り当ててみて試算を進めることが多い。
この仮説では、それぞれのうテップは0.5という確率で「実現する」ことになる。
つまり
0.5×0.5×0.5×0.5×0.5×0.5×0.5=0.0078125
「大風が吹いて」から全てのステップが実現されて「桶屋が儲かる」確率は、たった0.8%になってしまう。
えーーー!!!
語源調査と比べると超適当な統計計算じゃん……
おわりに
久しぶりに語源調査を行い、原文を調べた。
国会図書館デジタルもオンラインで閲覧できるようになり、技術の進歩により 新たな事実が見つかることを期待している。
研究者の方からも時々連絡を頂くことがある。
少しでも世の中に貢献できれば、僕としては満足だ。
ユーチューバーに内容をパチられるのはムカつくけどね。