僕は、移動平均線のGC(ゴールデンクロス)などのテクニカル指標に未だ意味を見い出せていない。
価格が上昇したからGCが表れたのであって、これから上昇するからでは無いよね?
そもそもチャート分析(テクニカル分析)をする上での大前提に
市場の変動はすべてを織り込む
というのがある。
これは
効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis、EMH)
とは異なるものなのか?
同じである場合は、既に経済学的に効率的市場では
インデックス投資が勝つ
ことが証明(ノーベル経済学賞受賞者 ウィリアム・フォーサイス・シャープ)されている。
最近では「市場には歪みがある」とか「市場は正規分布ではなく複雑系だ」などの主張が有力とは言われている。
歪みがあるなら前提は崩れ、チャート分析がますます無意味になる。
EMH | 原理 |
---|---|
弱効率市場仮説 | 過去の価格情報はすでに市場価格に反映されている。 テクニカル分析は無効 ファンダメンタルズ分析は有効 |
中効率市場仮説 | 公開されているすべての情報が市場価格に反映されている。 ファンダメンタルズ分析は無効 |
強効率市場仮説 | 公開されていない内部情報も含め、すべての情報が市場価格に反映されている。 インサイダー情報を含むあらゆる分析が無効 |
投資を長年研究している茨城大学大学院理工学研究科の鈴木智也教授はテクニカル分析を次のように語っている。
経済学者や研究者をもってしても統計的な検定をパスできず結局は仮説止まり
テクニカル分析は株価の特徴を抽出するフィルタリングツールとして使うのが良い
最近は僕もテクニカル指標の調査を止めている。
で、研究論文を読んで以前より気になっているのが
トレーダーカンパニー法
既に実装者がいるので、工数もないし手法の紹介だけに留めておく。
Trader-Company(TC)法とは何か?
Trader-Companyは2020年に伊藤克哉氏がPreferred Networks在籍中に野村アセットマネジメント株式会社との共同研究で生まれた市況・時系列予測手法。
- 日本語論文 Trader-Company法:メタヒューリスティクスを用いた株価予測
- 英語論文 Trader-Company Method: A Metaheuristic for Interpretable Stock Price Prediction
- 著者解説ブログ AAMAS2021:採択株価予測のためのアンサンブル・進化計算手法 : Trader-Company法
- 著者解説スライド 金融時系列解析入門 AAMAS2021 著者発表会
解決案の考え方。
- 金融にフィットした構造の機械学習アルゴリズムを作っておき、効率よく収益性の高い法則を発見する
- 機械学習における弱学習器の統合を利用する
- 金融工学の専門家にとって解釈可能であるような単純な戦略を弱学習器として採用する
これらの問題に対処するべくTrader-Company法という新しいメタヒューリスティクスを用いた予測アルゴリズムが提案された。
必ずしも正しい答えを導けるとは限らないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法。メタヒューリスティックは枠組みを拡張して様々な問題に応用できる汎用的な近似アルゴリズム。
簡単なTrader-Company法の紹介
一般的に、金融機関(Company)は何人かの機関投資家(Trader)を抱えており、各Traderの予測に基づいて株式市場の予測を行う。これをモデル化する。
具体的には、シンプルな式で将来の株価変動を予測するTraderたちを、Companyが管理(解雇、雇用、教育)するという方法。
対象 | 役割 |
---|---|
機関投資家(Trader) | 過去の株の利回りを入力として、シンプルな予測式により未来の株の利回りを予測する |
金融機関(Company) | Traderたちを大量に保有し管理することによってTraderを作り、かつ、Traderたちの予測をまとめることによって1つの株価の予測を行う |
この考えは、個々のTraderの結果がピンキリでもCompanyとして利益を上げるというファンドの指針そのもの。
詳細は別サイトから抜粋する。
- (1) Traderたちが単純な式に基づき、次の時刻における銘柄iの収益率ri(t+1)について予測を行う。この”単純な式”をformula,formulaの各項をfactorと呼ぶ。
- (2) (1)における予測をCompanyは集約し、各銘柄に対して予測を行う。
- (3) (2)のプロセスにおいて、成績の悪い(つまり予測の下手な)Traderに対してeducationを行う。具体的には、formulaにおけるfactorの各係数wjを最小二乗法により最適化するというプロセスを踏む。
- (4) (3)のeducationによっても成績が上がらなかったTraderは解雇されることになる(fire)。これは、良い予測につながりえないfactorを削除するためである。
- (5) 先ほど解雇されたTraderの代わりに、新しいTraderを見つける(recruit)。このプロセスにより、精度改善につながるfactorを発見できる可能性がある。
前述通り既に実装者がおり、数式が幾つか出てくるので詳細は省く。
派生研究
以前はHEROZ株式会社と野村ホールディングスが組んで株式トレードを研究していたが結果が出ないから撤退したと……聞いたことがある。
論文を見る限り今は株式会社 Preferred Networksと組んで研究を続けているようだ。
発案者のサイトで全てまとめられている。
Uncertainty Aware Trader-Company Method (UTC) 法
不確実性を考慮したトレーダー・カンパニー法による解釈可能な株価予測
藤本 悠吾, 中川 慧, 今城 健太郎, 南 賢太郎
第一著者は野村アセットマネジメント株式会社社員。
TC 法を不確実性の推定を可能にする確率的モデリングと組み合わせることにより、不確実性を捉えながら、TC 法の予測力と解釈可能性を維持できる。
2010 年1月4日から2022年1月31日までの TOPIX100 の構成銘柄の終値を使用
UTC 法は予測の不確実性が低い銘柄のみに投資するため、日次取引の累積リターンにてリスクを抑えながら安定したリターンを実現したそうだ。
特に、2020 年上半期のコロナショック下では、その時期の市場の不確実性を捉え、大幅な下落を抑えることができているとのこと。
リスクヘッジだけなら株式保有率を下げれば良いんじゃないの?と思わなくないが、僕のレベルでは到底理解できない。
英語版はこちら。
Uncertainty Aware Trader-Company Method: Interpretable Stock Price Prediction Capturing Uncertainty
Multiple-World Trader-Company(MWTC)法
山内 智貴, 中川 慧, 南 賢太郎, 今城 健太郎
こちらは第一著者は早稲田大学生。
JSAI2022 学生奨励賞を受賞。
TC法のCompanyモデルを弱学習器として、レジーム単位で分割した学習データを複数Companyが個別に学習し、最後に全Companyの学習を集約する。
1998年12月2日~2021年10月29日までの日経平均株価を予測。
Companyの集合が5(W=5)の時、もっとも高い予測精度を実現したそうだ。
W=3、7と比較して明らかに差があるから閾値間違えるとマイナスだし、TC法ですら閾値を間違えるとマイナスだ……。
おわりに
システムトレード的な話もたまには掲載しておくか……という意図での紹介。
多くの僕より賢い人が毎日株価予測をしている。
今後はAI取引によって株価トレンドが変わってしまうかもしれない。
であれば市場平均を取るインデックス投資が素人には一番じゃないのかな。