トレーダー・カンパニー法(TC法)と派生研究の概要まとめ(システムトレード)

僕は、移動平均線のGC(ゴールデンクロス)などのテクニカル指標に未だ意味を見い出せていない。

価格が上昇したからGCが表れたのであって、これから上昇するからでは無いよね?

 

そもそもチャート分析(テクニカル分析)をする上での大前提に

 

市場の変動はすべてを織り込む

株価が変動する背景には種々の要因があるが、そのすべての要因が、既に織り込まれた結果によって、現在の株価になっているという考え方

というのがある。

チャート分析(テクニカル分析)をする上での3つの大前提 | マーケットスピードオンラインヘルプ

 

これは

 

効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis、EMH)

 

とは異なるものなのか?

すべての利用可能な情報が完全に市場価格に反映されているとする仮説

 

同じである場合は、既に経済学的に効率的市場では

 

インデックス投資が勝つ

 

ことが証明(ノーベル経済学賞受賞者 ウィリアム・フォーサイス・シャープ)されている。

最近では「市場には歪みがある」とか「市場は正規分布ではなく複雑系だ」などの主張が有力とは言われている。

国際分散投資は机上の空論
国際分散投資だけでは、資産を守れない 自分で投資するスタイルの形態として、アクティブ投資とパッシブ投資がある。パッシブ投資派は、個別銘柄の売買では市場を上回るリターンが出るはずがないので、市場全体に投資するのが良いと信じている。つまり学者を信じる流派である。 一般的な投資指南として、マスコミに出る評論家や、個人投資家向...

歪みがあるなら前提は崩れ、チャート分析がますます無意味になる。

EMH 原理
弱効率市場仮説 過去の価格情報はすでに市場価格に反映されている。
テクニカル分析は無効
ファンダメンタルズ分析は有効
中効率市場仮説 公開されているすべての情報が市場価格に反映されている。
ファンダメンタルズ分析は無効
強効率市場仮説 公開されていない内部情報も含め、すべての情報が市場価格に反映されている。
インサイダー情報を含むあらゆる分析が無効

投資を長年研究している茨城大学大学院理工学研究科の鈴木智也教授はテクニカル分析を次のように語っている。

 

経済学者や研究者をもってしても統計的な検定をパスできず結局は仮説止まり

テクニカル分析は株価の特徴を抽出するフィルタリングツールとして使うのが良い

株式投資で成功を収めるには「投資」と「投機」の違いを把握することが鍵を握る | クリックアンドペイ合同会社
経済の先行きが不透明な中、将来に向けて投資で資金を増やしたい、と考えることは自然なことです。 しかし、「投資はギャンブル」という声も根強いため、投資をしたくても迷っている、という方も多いかもしれません。また、投資における代表的な分析方法であ

 

最近は僕もテクニカル指標の調査を止めている。

で、研究論文を読んで以前より気になっているのが

 

トレーダーカンパニー法

 

既に実装者がいるので、工数もないし手法の紹介だけに留めておく。

Trader-Company(TC)法とは何か?

Trader-Companyは2020年に伊藤克哉氏がPreferred Networks在籍中に野村アセットマネジメント株式会社との共同研究で生まれた市況・時系列予測手法。

解決案の考え方。

  • 金融にフィットした構造の機械学習アルゴリズムを作っておき、効率よく収益性の高い法則を発見する
  • 機械学習における弱学習器の統合を利用する
  • 金融工学の専門家にとって解釈可能であるような単純な戦略を弱学習器として採用する
[AAMAS2021採択]株価予測のためのアンサンブル・進化計算手法 : Trader-Company法 - Preferred Networks Research & Development
人工知能(特に自律エージェントとマルチエージェントシステム)のトップ会議のひとつであるAAMAS 2021に、PFNの伊藤克哉・南賢太郎・今城健太郎と野村アセットマネジメント株式会社の中川慧氏が共同で執筆した株価予測に関する論文がFull paperで採択されました。本記事ではその内容について簡単に紹介したいと思います...

 

これらの問題に対処するべくTrader-Company法という新しいメタヒューリスティクスを用いた予測アルゴリズムが提案された。

【ヒューリスティクス】
必ずしも正しい答えを導けるとは限らないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法。メタヒューリスティックは枠組みを拡張して様々な問題に応用できる汎用的な近似アルゴリズム。
Trader-Company法:メタヒューリスティクスを用いた株価予測 | CiNii Research
<p>近年、金融分野において、機械学習的手法を用いた定量的な金融予測手法の開発が実務的にも学術的にも盛んである。 しかし、機械学習を用いた定量的金融予測モデルの開発には三つの困難がある。まず、原理的に全てのモデルは短命でかつ、ほとんどチャンスレートの正解率しか達成できない。次に、取引戦略という特殊なルールを...

簡単なTrader-Company法の紹介

一般的に、金融機関(Company)は何人かの機関投資家(Trader)を抱えており、各Traderの予測に基づいて株式市場の予測を行う。これをモデル化する。

具体的には、シンプルな式で将来の株価変動を予測するTraderたちを、Companyが管理(解雇、雇用、教育)するという方法。

対象 役割
機関投資家(Trader) 過去の株の利回りを入力として、シンプルな予測式により未来の株の利回りを予測する
金融機関(Company) Traderたちを大量に保有し管理することによってTraderを作り、かつ、Traderたちの予測をまとめることによって1つの株価の予測を行う

この考えは、個々のTraderの結果がピンキリでもCompanyとして利益を上げるというファンドの指針そのもの。

詳細は別サイトから抜粋する。

  • (1) Traderたちが単純な式に基づき、次の時刻における銘柄iの収益率ri(t+1)について予測を行う。この”単純な式”をformula,formulaの各項をfactorと呼ぶ。
  • (2) (1)における予測をCompanyは集約し、各銘柄に対して予測を行う。
  • (3) (2)のプロセスにおいて、成績の悪い(つまり予測の下手な)Traderに対してeducationを行う。具体的には、formulaにおけるfactorの各係数wjを最小二乗法により最適化するというプロセスを踏む。
  • (4) (3)のeducationによっても成績が上がらなかったTraderは解雇されることになる(fire)。これは、良い予測につながりえないfactorを削除するためである。
  • (5) 先ほど解雇されたTraderの代わりに、新しいTraderを見つける(recruit)。このプロセスにより、精度改善につながるfactorを発見できる可能性がある。

前述通り既に実装者がおり、数式が幾つか出てくるので詳細は省く。

株式市場予測モデルTrader-Company法を(簡単に)実装してみた - Qiita
金融界隈(?)で少し前に話題になった,Trader-Company法を簡単に実装してみました.ざっくりいうと,Companyが何人かのTraderを抱えており,各Traderの予測に基づいて株式市場…

派生研究

以前はHEROZ株式会社と野村ホールディングスが組んで株式トレードを研究していたが結果が出ないから撤退したと……聞いたことがある。

論文を見る限り今は株式会社 Preferred Networksと組んで研究を続けているようだ。

発案者のサイトで全てまとめられている。

伊藤 克哉
my website

Uncertainty Aware Trader-Company Method (UTC) 法

不確実性を考慮したトレーダー・カンパニー法による解釈可能な株価予測

藤本 悠吾, 中川 慧, 今城 健太郎, 南 賢太郎

第一著者は野村アセットマネジメント株式会社社員。

TC 法を不確実性の推定を可能にする確率的モデリングと組み合わせることにより、不確実性を捉えながら、TC 法の予測力と解釈可能性を維持できる。

2010 年1月4日から2022年1月31日までの TOPIX100 の構成銘柄の終値を使用

UTC 法は予測の不確実性が低い銘柄のみに投資するため、日次取引の累積リターンにてリスクを抑えながら安定したリターンを実現したそうだ。

特に、2020 年上半期のコロナショック下では、その時期の市場の不確実性を捉え、大幅な下落を抑えることができているとのこと。

リスクヘッジだけなら株式保有率を下げれば良いんじゃないの?と思わなくないが、僕のレベルでは到底理解できない。

不確実性を考慮したトレーダー・カンパニー法による解釈可能な株価予測
J-STAGE

英語版はこちら。

Uncertainty Aware Trader-Company Method: Interpretable Stock Price Prediction Capturing Uncertainty

Uncertainty Aware Trader-Company Method: Interpretable Stock Price Prediction Capturing Uncertainty
Machine learning is an increasingly popular tool with some success in predicting stock prices. One promising method is the Trader-Company~(TC) method, which tak...

Multiple-World Trader-Company(MWTC)法

山内 智貴, 中川 慧, 南 賢太郎, 今城 健太郎

こちらは第一著者は早稲田大学生。

JSAI2022 学生奨励賞を受賞。

TC法のCompanyモデルを弱学習器として、レジーム単位で分割した学習データを複数Companyが個別に学習し、最後に全Companyの学習を集約する。

1998年12月2日~2021年10月29日までの日経平均株価を予測。

Companyの集合が5(W=5)の時、もっとも高い予測精度を実現したそうだ。

W=3、7と比較して明らかに差があるから閾値間違えるとマイナスだし、TC法ですら閾値を間違えるとマイナスだ……。

株価予測のためのMultiple-World Trader-Company法の提案とレジーム変化に対するロバスト性の評価
J-STAGE

おわりに

システムトレード的な話もたまには掲載しておくか……という意図での紹介。

多くの僕より賢い人が毎日株価予測をしている。

 

今後はAI取引によって株価トレンドが変わってしまうかもしれない。

であれば市場平均を取るインデックス投資が素人には一番じゃないのかな。

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