アメリカ人に対するステレオタイプと払拭方法

国際コミュニケーション演習課題のレポートをやってみた。

はじめに

現代は「グローバル化の時代」であり、様々な民族や文化が共存している。しかし、異文化に対する理解は十分とはいえない。本名、竹下ら[2]は「国際ビジネスにおけるコミュニケーション課題」は大きく分けて次の3点をあげている。

  • 言語能力
  • 異文化の理解
  • ステレオタイプ観を取り払うこと

本記事では、アメリカに対してどのようなステレオタイプ(多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固定観念)が存在するかをアンケートから調査し、妥当性に関して統計データから検証する。加えてステレオタイプの形成理由と払拭方法に関して、先行研究を交えて考察する。

アメリカ人に対するステレオタイプと事実検証

アメリカ滞在経験のない20代(40%)と30代(60%)の15名の社会人(男女)に「アメリカ人に対する印象」を質問した。結果を表1に示す。

表1 アメリカ人に対する印象

カテゴリ 印象内容
労働 仕事を早めに切り上げて家族と過ごす、残業しない
食事 ファストフードが多い、量が多い
体格 大きい、太っている
性格 友好的、明るい

ステレオタイプの事実検証

上記で述べたステレオタイプの事実性を幾つか検証する。

まず、労働時間に関して各国の一人当たり平均年間総実労働時間[3]を表2に示す。

表2 一人当たり平均年間総実労働時間

就業者 時間/Hours
韓国 2,193時間
アメリカ 1,778時間
イタリア 1,778時間
ニュージーランド 1,758時間
日本 1,733時間

表2をみると、アメリカ人の労働時間が日本を含めた他の国と比較しても短いとはいえない。ただし、日本には「サービス残業」という習慣や、表2のデータには非正規雇用も含まれているため、日米間を単純に比較はできない。

 次に食事に関して、各国の食料摂取カロリー(1日当たり)[4]を比較する(図1)。

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図1 各国の食料摂取カロリー(1日当たり)

図1より、アメリカ人の摂取カロリーは3,639Kcal であり、日本人の2,719Kcalと比較すると1,000Kcal近く差があることが分かる。ただし、アメリカ人の摂取量が突出している訳ではなく、イタリア、ドイツ、フランス、イギリス、韓国とほぼ横並びである。特に世界的に見ても日本人の摂取カロリーだけが1996年をピークに減少傾向にあり、こちらも最新年の日米間の比較だけみて単純に検証することは危険である。

 次に体格に関して、世界の肥満率を[4]に示す(表3)。

表3 世界の肥満率

肥満率
アメリカ 30.6
メキシコ 24.2
英国 23.0
ニュージーランド 20.9
カナダ 14.3
フランス 9.4
イタリア 8.5
韓国 3.2
日本 3.2

表3より、アメリカ人は他の国と比較しても抜き出ている。ただし、図1と比較すると「カロリーの摂取が多い=肥満」の相関は成り立たない。

最後に性格に関して、友好的な側面を調査する。表4は外国人から見て友人を作りやすいか、現地の言葉を学んでいるか、コミュニティに参加しているか、のアンケートを基準にForbesがまとめたものである[5]。

表4 友好的な国ランキング

順位 国・諸島
1 ケイマン諸島
2 オーストラリア
3 イギリス
4 カナダ
5 ニュージランド
6 スペイン
7 アメリカ

図2は、「海外の訪問客を歓迎するか?」というアンケートをWEFが140カ国で行った結果である[6]。

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図2 海外の訪問客を歓迎するか?

図2では、アメリカは104位となっている。表4、図2の結果より、海外から見たアメリカ人は友好的に映るが、アメリカ人自身は友好だと考えてないことが伺える。

以上より、「アメリカ人の印象」の中には統計上正しくないものが含まれていることが分かる。

ステレオタイプの形成理由と払拭方法

ステレオタイプの形成の原因は、主に、自分の所属する団体や権利に対して服従し、他の団体や権利を見くびることにある[7]。
アンケートの中で「偏見だとわかってはいるけど、経験上そのような人たちが多い」という意見も得られた。この考えはステレオタイプの源泉となっており、社会学では「統計的差別」と呼ばれる。これらに基づいたステレオタイプは無くなるどころか強くなってしまう。

ステレオタイプの払拭方法

ステレオタイプの払拭方法として[7]は、

  • 1.われわれは自分自身の中のステレオタイプを認めなければならない。
  • 2.偏見を受けている側も、声を出さなければならない。
  • 3.若者の情報を疑う力を養うことも必要もある。

と述べている。
ここで、表5に日本人が外国人に対して親しみを感じないとする割合を示す[8](絶対値と割合を再計算し20代~30代、60代以降の割合を算出)。全体をみると日本人は中国人に最も親しみを感じていないことが分かる。しかし年齢別の比率をみてみると、60代は中国に最も親しみを感じないが、20代~30代は中央アジア・コーカサス諸国に最も親しみを感じていない。

表5 日本内閣府が実施した外交に関する世論調査

国・諸国別 親しみを感じない
全体 20代~30代 60代以降
中国 83.2% 79.0% 86.4%
ロシア 79.3% 75.9% 80.1%
中央アジア・コーカサス諸国 67.4% 81.1% 55.8%
韓国 64.7% 58.3% 70.0%
アメリカ 13.5% 14.6% 14.6%

中央アジア・コーカサス諸国は世界平和度指数が低い。これより若者はシニアとくらべて世界情勢を把握しており、必ずしも若者が情報を疑う力が欠如していると結論付けはできない。これは社会心理学の問題も含んでいる。
ステレオタイプを払拭するには、実データに基づき割合の罠に注意しながら分析するという、一歩踏み込んだ考察が必要だといえる。

おわりに

本記事では、アメリカ人に対するステレオタイプと事実性を検討した。またステレオタイプを払拭するために統計データを利用して判断する方法も示した。課題としては、他国や州、移民ごとに比較したステレオタイプの形成特長・背景の詳細分析があげられる。

参考文献

  • [1] 本名 信行, 竹下 裕子, 異文化理解とコミュニケーション2(人間と組織), 2005, 三修社
  • [2] 一人当たり平均年間総実労働時間, 2016, 独立行政法人 労働政策研究・研修機構.
  • [3] Anon (2005). OECD Factbook: Economic, Environmental and Social Statistics. Organization for Economic Co-operation and Development. ISBN 92-64-01869-7.
  • [4] FAOSTAT (“Food Supply”, 2015, 8.19), http://faostat3.fao.org/home/E
  • [5] The World’s Friendliest Countries, Beth Greenfield, Forbes, 2012, http://www.forbes.com/forbes/welcome/?/2011/04/08/worlds-friendliest-countries-business-expats.html
  • [6] How welcome are foreign visitors in your country?, Weforum, 2013, http://www3.weforum.org/docs/WEF_TT_Competitiveness_Report_2013.pdf#page=487
  • [7] ステレオタイプとメディアの関係, 寧昊, 神田外語大学(中国), https://iush.jp/uploads/files/20151111143702.pdf
  • [8] 外交に関する世論調査, 平成27年度, 内閣府大臣官房政府広報室, http://survey.gov-online.go.jp/h27/h27-gaiko/index.html
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