回転寿司の「えんがわ」はヒラメでないから偽装は嘘。本来はカレイで正解

代用魚・偽装魚。

 
よく話題に挙がるのが
 

 

回転寿司屋は代用魚を使っている

 
 

この、企業努力一切を
 

ぶち壊し

 
にする

決めつけ記事が未だに
 

蔓延(はびこ)
 
っている。
 
 

コロナで図書館訪問にも制限があり、調査内容がある程度そろうのに数カ月かかった。

そして前々回の記事は、今回の記事に向けた前提知識だ。

「ヒラメ」「かれい」の分類・味の違いの認識はいつからか?
過去の日記では魚の分類や名前を調べて公開している。しかし、詳細な図鑑や辞典が無かった時代に、どのように分類していたのか?今回は「ヒラメ」と「カレイ」を調べてみる。色々と調べた割には、辞書で知れる一般知識を超え...

嘘を見抜けない読者は多いが、「出典」や「出典の出典」を調べない執筆家も多い。
 

この記事の「ねほり度」 ★★★★☆(独自調査が含まれ、一般人には提示できるレベル)

寿司屋で通に人気の「えんがわ」って何?

寿司ネタの「えんがわ」ってご存知?

 
 

えんがわは、ヒラメ、カレイの鰭を動かすための筋肉の部分。


 
 

身の形が家屋の縁側に似ていることからそう呼ばれる。

 
 

噛めば噛むほど口の中に広がる旨みと甘味

肉厚で濃厚な脂のりとコリコリの食感
 
 

もういろいろと食ってきて、ちゃらちゃらした食い物なんぞは飽きた。

そんな酸いも辛いも噛み分けたような「大人」が、料理屋などで
 

「・・・えんがわ」

 

などとボソリと注文する。

そんな、渋いものという印象。
 
 

逆にガキとかが
 

「うん、ボク、えんがわね!」

 

なんて言ったら
 

張り倒したくなる

 
 

 
 

それが「えんがわ」。

 
 
因みに、高度成長時代以降は土地の値段も上がり、うさぎ小屋のような家に住んでいるガキどもは、縁側を知らないかもしれない。

これが、縁側。

魚のヒレ部分に似ている・・・かなぁ・・・。

回転寿司屋は、何の「えんがわ」を使っているか?

2003年に

JAS法

農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律

が改定され、代用魚も本来の名前を表示するように義務付けられている。

外食メニューや料理は適用外だが、大手回転寿司屋は自発的に利用している魚の名前を公開している。

無添くら寿司

くら寿司 原材料(2020年8月7日)」には、次のように記載がある。

  • 「えんがわ」は「アブラカレイ、カラスガレイ等」

かっぱ寿司

かっぱ寿司 原産地情報(2020年8月10日)」に記載がある。更新頻度も高い。

  • 「えんがわ」は「アブラカレイ」

はま寿司

はま寿司 原産地情報(2019年11月14日)」に次のように記載がある。更新頻度は低い。

  • 「えんがわ」は「カレイ」

「えんがわ」が「カレイ」だとは分かる。
 

ただし、何のカレイか分からない。
 
 
仕方ないので、問い合わせた

  • 「えんがわ」は「アブラカレイ」、「カラスガレイ」

ただし、店舗・時期によって異なる。

株式会社はま寿司 お客様相談窓口より

あきんどスシロー

スシロー 原産地情報(日付なし)」に記載がある。

 
ただし、
 

「えんがわ」の原材料は「えんがわ」
 

というクソな書き方になっている。
 
 
以前は次のように書かれていた。

  • 「えんがわ」は「からすがれい」

すし銚子丸

ここは100円均一では無いので、他の店舗と比較するのは酷だが確認した。

銚子丸 原産地情報(2019年10月1日)」に記載がある。

  • 「えんがわ」は「からすがれい」

因みに「カラスガレイ」とは、こんな大きさの魚。

[引用] Big Fishes of the World

スズキ系カレイ目カレイ亜科カレイ科カラスガレイ属であり、れっきとした「カレイ科」の魚だ。

エンガワの代用魚

エンガワは歯ごたえのある触感とほのかな甘みが特徴の、ヒラメやカレイのひれの根本あたりの部位の事を指します。

エンガワの代用魚としてはオヒョウやカラスガレイなどが有名です。

お寿司のネタには代替魚が使われている!?真偽や法令を調べてみた結果
代用魚・代替魚とは商品となる特定の魚の入手が困難な場合などに、本物の代わりとして用いられるの魚の事を指します。消費者の事をあえて騙して本物と似ている代用魚を用いると“偽装魚”などと呼ばれることもありますが、今回は流通の真偽を吟味しながら法律についても確認していきたいと思います。

カラスガレイ属とオヒョウ属なら許せない?

マツカワ属、アブラガレイ属、イシガレイ属、ツノガレイ属なら許せるってこと?

全く意味分からない。

「えんがわ」とは本来「ヒラメ」なのか?

前述のように回転寿司の「えんがわ」には「カラスガレイ」「アブラガレイ」が使われている。
 
 

と言う事を理解した上で、ようやく本題。

 

えんがわ

本来はヒラメを使うが、1匹のヒラメからは4貫ほどしか取れない。
よって、回転寿司店で出ることはない。多くの回転寿司店では、巨大魚のオヒョウやカラスガレイを代用魚にしている。

 
 
[引用]
浅野智恵美 (NACS消費生活研究所)  2011-11-01 記事
椎名玲(ジャーナリスト)+本誌取材班 「週刊文春」2013年7月25日号
 
 

回転寿司は「えんがわ」に「カレイ」を使ってるので代用魚

 
 

と言うのが、大まかな主張だ。

そして、多くの小銭稼ぎのまとめサイトが、これらの記事をパクって、もはや
 
 
カレイの「えんがわ」を使うのは悪

 
 

な感が醸し出されている。

この発端はWikipediaだと思われる。
 
 

寿司ネタで「えんがわ」といえば、本来は「ヒラメのえんがわ」を指す。

 
 

しかし現在、Wikipeiaは文面が削除されていた。

 

「出典」が明確でないからだ。


 

この「Wikipedia」のヒストリーを確認すると、次のように記載内容が年々変わっている。

 
 

  • 2017年5月11日 (木) 12:38‎ (削除)
  • 2011年4月4日 (月) 20:52‎  寿司ネタで「えんがわ」といえば、本来は「ヒラメのえんがわ」を指す。
  • 2009年2月11日 (水) 02:57‎ 寿司ネタで「えんがわ」といえば、「ヒラメのえんがわ」を指す。
  • 2006年5月31日 (水) 20:21‎ 一般に、寿司ネタで「えんがわ」といえば、「ヒラメのえんがわ」を指す。

 
 

特に根拠なく載せてしまったようだ。

 
 

もはや、収拾がつかないほど偏向記事が一般化している・・・。

 
 

今回のねほりポイントは、

 
 

「えんがわ」は本来は「ヒラメ」を指していたか?

 
 

ほんらい【本来】
《名・副》もともと。初めから。元来

 
 

これを証明するのは難しいので、矛盾を証明するには逆を考えればいい。
 
 

「えんがわ」の言葉が登場した江戸時代に、「カレイ」が利用されていた事を立証できないか?

 
 

で、前々回の日記は、この部分を深堀りするための前提知識。

要するに、江戸時代には「カレイ」の方が「ヒラメ」より高級魚扱いであり、ヒラメ・カレイの区別も地方により曖昧だった。

 
 

因みに、江戸前寿司の歴史は浅いので江戸前寿司では昔から、えんがわと言えば・・・は、調査に値しない。

そもそも、えんがわを生で食べてなかった時代の話だ。

【ことわざ】夏座敷と鰈は縁側がよい

「なつざしき」と「かれい」は「えんがわ」がよい
 
 

決定的な諺(ことわざ)を見つけた。

 
 

意味は次の通り。

 夏は暑いので座敷よりも、縁側の方が風通しがよく涼しくて上座に当たる。カレイの場合も、一般には真ん中の身(肉)を上等とするが、端にある縁側に当たるヒレの部分の方が味がよい、ということ<譬喩尽>。冷房設備や扇風機もなく、団扇が幅を利かせていた頃の諺であろう。

二階堂清風編著「釣りと魚のことわざ辞典」東京堂出版

この著者は「ヒラメこそえんがわ」に結びつけようと、主観が入っており証拠としての価値はない。

他には、

カレイの「縁側」とは上下のヒレのつけ根の肉。この部分は泳ぐときよく動かすので肉が締まっており、刺身よし、炙ってよしと美味であるが、気がきかないのか悪意か、このヒレを取って料理されることもあるとか。
夏、日本家屋の座敷では、どこよりも縁側が一番涼しい。カレイも同じく縁側がよい、と双方をひっかけている。

[引用] おもしろいサカナの雑学事典 新人物往来社/1994.3 p.248(さかなづくし)

 
 

この時点で、真偽が決まったようなものだが、

「ことわざ」といえば、一家に一冊

 

故事俗信 ことわざ大辞典 第二版

 

私のプライベートな調査にも協力して下さる北村孝一氏の著書だ。

故事俗信 ことわざ大辞典 第二版

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この中にも、みつけた。

 
 

・・・・ん?

夏座敷と鰈(かれい)とは縁端(えんばし)が良(よ)い

 

「縁側」ではなくて「縁端(えんばし)」?

 

出典は

譬喩尽(たとえづくし)

松葉軒東井 第3巻 1786年

この書籍は江戸後期のことわざや慣用句の類を集めていろは分けに編集したものだ。

18世紀後半の言語文化の格好の資料としてよく使われている。

たとへづくし―譬喩尽 (1979年)

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国会図書館デジタルコレクションで、この書籍も確認してみた(第三巻 p.155)

 
 

夏座敷と鰈(かれ)とは縁端(えんばし)が能(よ)ひ

 
 

やっぱり「縁端」だった。

「縁端(えんばし)」という呼び方は辞書に載ってないが「えんばた/えんばな/えんはな」という形では意味が載っていた。

 

【意味】縁側のはし

 
 

[引用] 日本国語大辞典 第二版

用例も存在する。

縁端に腫たる足をなげだして     狐屋
 鍋の鋳かけを念入てみる      野坡

[引用] 俳諧「炭俵」1694年(元禄7年)

少なくとも江戸時代にはすでに庶民の間で使われていた言葉だと分かる。

意味は「縁側」の事には違いない。

では、当時は「縁側」という言葉が無かったのか?

 
 

「縁側」も調べてみた。

[引用] 日本国語大辞典 第二版

こちらも用例が存在していた。

塵壺をむかいは違棚の下にかざられしかども、鴎休は無用のよしにて、千の書院にても縁がわの隅の、ぬめ板にをかれたり

[引用] 南方録(元禄時代1688年~1704年に成立した偽書)

 
 

「縁端」も「縁側」も同じ江戸時代の元禄頃には存在している語のようだ。

※「縁側(えんがわ)」という言葉の例が見られるのは、江戸時代から。とある([引用] 暮らしのことば「新 語源辞典」 山口佳紀編)

 

であれば、あえて「縁端」という言葉を「ことわざ」として選択したのは何故だろうか。

これは継続調査が必要。

 
 

なお、200年後の明治時代に入ると「ヒラメのえんがわ」に対する記載が存在していた。

鰹は中落が旨うまくッて、比良目(ひらめ)は縁側に限るといやあ、何ですか、そこに一番滋養分がありますか、と仰有(おっしゃ)るだろう。

[引用] 湯島詣「泉鏡花」(1899年)

少なくとも明治時代には「えんがわはヒラメ」という認識が広まっている事が伺える。

しかし、江戸時代の文献には見つけることが出来なかった。

まとめ

今回分かった事は次のとおり。

 

江戸時代には「えんがわ(縁端と呼ばれていたが)」と言えば「カレイ」を指していた。

明治時代には「えんがわ」と言えば「ヒラメ」を指すようになった。

 
 
理由には、江戸前鮨が誕生(江戸期・文政年間(1818年~1830年)などが関連しているのかもしれない。

[引用] 伝統食「すし」の変貌とグローバル化(「京都産業大学日本文化研究所紀要」第24号、並松信久)

 

前回調査でも「ヒラメ」は生食、「カレイ」は煮付け等で江戸時代後半にはお客に提供されていた。

「ヒラメ」「かれい」の分類・味の違いの認識はいつからか?
過去の日記では魚の分類や名前を調べて公開している。しかし、詳細な図鑑や辞典が無かった時代に、どのように分類していたのか?今回は「ヒラメ」と「カレイ」を調べてみる。色々と調べた割には、辞書で知れる一般知識を超え...

このため、生食である寿司ではヒラメを食べる事例の方が多く「えんがわ」も「本来ヒラメを指す」という誤った認識を作ってしまったのかもしれない。

が、事実は不明だ。

 
 

少なくとも、「えんがわは本来はヒラメ」という事実はなく、江戸時代にも「えんがわはカレイ」の事を指していた事が判明した。

 
 

「本来」というのであれば、証拠を出せ!証拠を!

 
 

ヒラメは冬場が旬だが、カレイは夏場が旬。

江戸時代の食通たちは夏に旬を迎える「カレイ」の、しかも「えんがわ」を涼やかな夏座敷の縁側になぞらえて、その値打ちを軽妙洒脱にそう評したのかもしれない。

なお、現代の辞書「デジタル大辞泉」で「縁側」を確認すると、

1 「縁(えん)」に同じ。
2 魚のひれの基部にある骨。担鰭骨(たんきこつ)のこと。また、カレイやヒラメの背びれ・しりびれの付け根にある肉。

「えんがわ」は「カレイ」に関しても指すことが分かる。

何も調べず「代用魚だ!」と文句だけ言う偏向的な考え方は捨てたほうが良い。

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