「複利はアインシュタインが人類最大の発明と言った」
みたいな話がある。
- 「複利は世界第8の不思議である」
- 「複利は相対性理論よりも複雑である」
- 「宇宙で最も強力な力は複利である」
- 「19世紀の最も重要な発明は複利である」
2022年にブログを書いた。
アインシュタインが言ったという事実はない
だけど、2022年以降も数々の大手証券会社の記事や資料に未だ引用されている。
証券会社が「知らぬ存ぜぬ」はありえない。
こんな重要なことを、調べず、否定せず、事なかれ主義で、ずっと講釈をたれている企業・人物は無責任な体質ということが分かる。
残念ながら「山崎元」氏も含まれていた。
【楽天証券】
2022/7/12 <執筆者> 山崎元
「複利は人類最大の発明である」と、かつて物理学者のアインシュタインが語ったとされている。投資の入門書やセミナーでよく引き合いに出される言葉だ。
【SBI証券】
<提供> ウエルスアドバイザー
72の法則の発見者は?
この公式を発見したのは、あのアインシュタイン博士なのです。彼は複利を「史上最大の数学的発見」と評し、72の法則によって複利の偉大さを証明しました。公式そのものはシンプルですが、それを導くための証明式は膨大なものだったそうです。
【松井証券】
2024/3/27 <監修者> 川口一晃 オフィスKAZ 代表取締役
複利はアインシュタインが「人類最大の発明」と称したもので、長期的な資産形成を行う上で重要な役割を果たします。
【マネックス証券】
2024/01/17 <執筆者> 頼藤 太希 (株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
アインシュタインが人類最大の発明と言った「複利効果」を活用しよう
【野村證券】
2017.05.08 <監修> 高橋 浩史(FPライフレックス代表)
20世紀最大の物理学者とも言われるアインシュタインが「人類最大の発明」「宇宙で最も偉大な力」と呼んだものが何かご存知だろうか?
特殊相対性理論? ブラウン運動の理論? 正解は「複利」だというのだ。
野村證券のサイトには次のような注釈がついている。
(注)初出はアインシュタインの没後28年経った1983年のニューヨーク・タイムズという説がある。また発言の解釈についても諸説あり。
図書館でアインシュタインの伝記や語録集を調べたが、発言は見当たらなかった。
仕方ないので「quoteinvestigator.com」のネタ引用だけど日本語で紹介しておく。
「72の法則」の発見者はアインシュタインか?
この公式を発見したのは、あのアインシュタイン博士(by SBI証券)
のはずがない!
既に1494年11月10日に、イタリアの数学者「ルカ・パチョーリ(1445年 – 1517年)」の著書『スムマ(算術、幾何、比および比例に関する全集)』に「72の法則」の記載がある。
A voler sapere ogni quantità a tanto per 100 l’anno, in quanti anni sarà tornata doppia tra utile e capitale, tieni per regola 72, a mente, il quale sempre partirai per l’interesse, e quello che ne viene, in tanti anni sarà raddoppiato. Esempio: Quando l’interesse è a 6 per 100 l’anno, dico che si parta 72 per 6; ne vien 12, e in 12 anni sarà raddoppiato il capitale.
年間 100 の割合ですべての数量を知りたい場合は、何年後に利益と資本の間の利益が 2 倍になるかを知りたい場合は、ルール 72 を念頭に置いてください。これは常に利子として残され、そこから何が得られるかがわかります。何年も経てば2倍になるでしょう。例: 利息が年間 100 の 6 倍である場合、72 × 6 から開始すると言います。 12人が来ると、12年後には資本が2倍になります。
『スムマ』は算術百科事典としての内容を備えており、当時の数学知識を集めた最初の印刷本。
つまり公式の発見者はルカ・パチョーリではない。
Wikipediaにも、そのように書いてある。
An early reference to the rule is in the Summa de arithmetica (Venice, 1494. Fol. 181, n. 44) of Luca Pacioli (1445–1514). He presents the rule in a discussion regarding the estimation of the doubling time of an investment, but does not derive or explain the rule, and it is thus assumed that the rule predates Pacioli by some time.
初期の言及は、Luca Pacioli (1445–1514) のSumma de arithmetica (Venice, 1494. Fol. 181, n. 44)にあります。彼は、投資の倍増時間の推定に関する議論の中でルールを提示しましたが、ルールの導出や説明は行っていないため、このルールはパチョーリよりもかなり以前のものであると想定されています。
少なくとも
アインシュタインが生まれるより以前から存在する式であり、アインシュタインの発見した公式ではない!
「複利は人類最大の発明」とアインシュタインは言ったか?
本題はこっち。
1983年5月27日、ニューヨークタイムズ全国版
「ウィークエンダー ガイド、金曜日、カルビン ハンプトンお別れ」という見出しで、次のような記載が掲載された(画像はイメージ)。
Asked once what the greatest invention of all times was, Albert Einstein is said to have replied, ”compound interest.”
かつて、史上最大の発明は何かと尋ねられたアルバート・アインシュタインは、「複利」と答えたと言われています。
1977年、科学者のスティーブン・ローゼンがテレビ番組にて
科学者のスティーブン・ローゼンがテレビ出演時の戦略について書いている。
One question I was asked at practically every stop was, “What’s the greatest invention of all time?” I finally worked up an acceptable answer to this one, one I hoped would preserve my goal of presenting positive, optimistic views of science.
Greatest invention? “Albert Einstein said it was compound interest.”
ほとんどすべての訪問先で尋ねられた質問は、「史上最大の発明は何ですか?」でした。私はついに、この質問に対する納得のいく答えを思いつきました。この答えによって、科学に対する前向きで楽観的な見解を示すという私の目標が維持されることを願っていました。
最大の発明は?「アルバート・アインシュタインは複利だと言いました。」
このような親しみやすい雑談が、トークショーの視聴者が期待するものだと彼は考え実行したととのこと。
つまり彼の創作。
【最古】1976年8月25日、ウォール ストリート ジャーナル
これが最古の記事として紹介されている。
ヘイスティングス キース著「年金受給者からの手紙」、12 ページ、ニューヨークに、アインシュタインが「複利」は「人類最大の発明」だと信じていたとする意見記事が掲載された(画像はイメージ)。
All I can do is remind them of the truth of Albert Einstein’s alleged response when he was asked, “What do you, Mr. Einstein, consider to be man’s greatest invention?” He didn’t reply the wheel or the lever. He is reported to have said, “Compound interest.”
私ができるのは、アルバート・アインシュタインが「アインシュタインさん、人類最大の発明は何だと思いますか?」と尋ねられたときの答えの真実を彼らに思い出させることだけです。彼は車輪でもレバーでも答えませんでした。伝えられるところによると、彼は「複利です」と答えたそうです。
【付録】1970年2月26日、オマハ・ワールド・ヘラルド
米国中西部の日刊紙のニュースのコラム(仕事に必要な蚊95匹、LM ボイド著、30ページ、第1列)に
アインシュタインが人類最大の発明
と語ったとされる別の記事が掲載されているらしい(画像はイメージ)。
… it was the claim of Dr. Albert Einstein, the humorist, that the zipper was man’s greatest invention.
… ユーモアリストのアルバート・アインシュタイン博士は、ジッパーは人類最大の発明だと主張しました。
そう、アインシュタインは次のように語った。
ジッパーは人類最大の発明であると。
笑えるよね。
このように著名人の名前を出す事で、それが素晴らしいモノだと顧客に思わせる事は昔から行われている。
その他の人が語ったとされる「複利」の言葉
同じ言い回しを別の人物が語ったとする記事も多々ある。
1972年10月、経済学者「ジョン・メイナード・ケインズ」
経済学者ケインズは次のように語っていると記載がある(アーバン ランド: 土地開発のニュースと動向、衛星コミュニティ、バーナード ワイスブール著、開始ページ 3、引用ページ 9)。
According to John Maynard Keynes, “compound interest is the second greatest invention of mankind”.
ジョン・メイナード・ケインズによれば、「複利は人類の2番目に偉大な発明である」。
こちらも真偽は分からない。
1935年3月1日、バブソン大学創設者「ロジャー W. バブソン」の書籍の書評
ニューヨーク タイムズ紙にロジャー W. バブソン著『行動と反応: 自伝』の書評が掲載され、著者が父親から受けたアドバイスを紹介する抜粋が掲載されている。
… the elder Babson gave him the pithy advice to go into banking, insurance or public-utility operation, stressing the fact that “the world’s greatest invention was 6 per cent compound interest, which goes on twenty-four hours a day, seven days a week and fifty-two weeks a year.”
…バブソン父は彼に、銀行、保険、公共事業の運営に携わるようにという簡潔なアドバイスを与え、「世界最大の発明は6%の複利であり、それが1日24時間、1週間7日、1年52週間続く」という事実を強調した。
1906年、文学者「ジャック・ロンドン」
ジャック ロンドン著のエッセイ「私にとって人生とは(コスモポリタン マガジン、526 ページ、第 40 巻第 5 号)」の中で「複利」を「人間の驚くべき発明」と表現した。
I early inquired the rate of interest on invested money, and worried my child’s brain into an understanding of the virtues and excellencies of that remarkable invention of man, compound interest.
私は早くから投資したお金の利子率を調べ、子供の脳に、人類の驚くべき発明である複利の長所と素晴らしさを理解させるよう、努力しました。
おわりに
他にもアインシュタインが「複利は世界の第8の不思議である」と述べた……事に対する調査が「quoteinvestigator.com」では見つかる。
このような嘘や捏造が蔓延る 投資の世界で地図を持たずに後悔なき航海するのは無理だろう。
最近は保険屋も
「だから信頼できるファイナルシャルプランナーをSOVANI!」
と変額個人年金保険を勧めてくる。
株式市場は人々の欲望が生み出した巨大な迷宮
「アインシュタインが複利を人類最大の発明と言った」
という話は調べれば調べるほど根拠がない創作だと分かるが、これは悪魔の証明。
これを口に出す人々を信じてはいけない。
彼らは20年前には「アメリカ市場は終わり」と語りS&P500やオルカンのようなインデックス商品は売り込んで無かった。
僕の調査ではアメリカ経済は200年間以上 単調増加している。