格言「魚を与えるのではなく釣り方を教えよ」の語源が「老子」説はウソ(2/2)

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前回の続き。
 
 

Give me a fish and I will eat today; teach me to fish and I will eat all my life.

 

人に魚を与えれば、1日の糧となる。人に魚を捕ることを教えれば、一生食べていくことができる

 
という意味で、開発途上国などへの援助のしかたについて比喩としてよく使われることがある。

魚を与えるのではなく釣り方を教えよ

現在まで分かっていること。

  • 老子のことわざでは無い
  • 紀元前122年までに中国で「魚が欲しければ、家に帰って網を作れ」ということわざは生まれている
  • 英語ではイギリスの作家、アン・イザベラ・サッカレー・リッチー氏の1885年の小説「ダイモンド夫人」で使われたのが最も古い
  • 「貧民に商売を教えろ」という趣旨の言葉は12世紀にユダヤ教のラビが文章に残している

 
 

格言「魚を与えるのではなく釣り方を教えよ」の語源が「老子」説はウソ(1/2)
魚を与えるのではなく、釣り方を教えよこれは、なんだか非常に奥が深そうでカッコいい。中二マインドにめちゃくちゃクる。(国際)教育の世界ではよく出てくる言葉の一つで、釣り人にも人気のある言...

 

先行の調査サイトとしてGarson O’TooleのQuote Investigatorが特に詳しい。

海外でも様々な地域や人が語源という説が流布されている。

  • 中国のことわざ
  • スペインのユダヤ教徒のラビ
  • 老子
  • アン・イザベラ、レディ・リッチー(英国の作家)
  • イタリアの格言
  • ネイティブ・アメリカンの言葉
  • 毛沢東

前回は先行調査の域を出なかったが、今回は独自調査を進めてみよう。

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独自調査……まずは手始めに

日本語でも多くの語源説が飛び交ってる。

  • 東南アジアのことわざ
  • ネイティブ・アメリカンの言葉

とも書かれていたがソースは見つからず。

アフリカのことわざ説

アフリカって奴隷貿易が盛んだったから、伝統文化や教育って残ってないんじゃない?

そこに疑問を持たず「アフリカが語源」と言ったのは、外務省大臣。

スピーチで次のように発言したらしい。

 
 

今日の日本の開発戦略は、アフリカの諺が言うように、「魚を与えるよりも、魚の釣り方を伝える」、即ち、人造り(human resources development)、制度作り(institution building)を軸としています

外務省HP「2005年OECD閣僚理事会・開発の議題における町村信孝 大臣」

外務省: 2005年OECD閣僚理事会・開発の議題における町村大臣スピーチ

 
 

で、アフリカのどこの国よ?

 
 

調べてみると見つかった。

2000年発行の「ゾマホン、大いに泣く」(河出書房新社)p16に次のように書かれている。

 
 

魚を欲しがる友には魚の取り方を

ベナンに「魚を欲しがる友達に毎日魚をあげるよりも、魚の取り方を教えた方がいい」ということわざがあります。海外援助に頼らない力を自分たちが持つ努力を、我々アフリカ人はしなければならない。そう思いました。

 
 

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そうか「ベナン」か。って、全く知らねーー。

 
 

正確には1990年3月から「ベナン共和国」。1960年以降は「ダホメ共和国」。

それ以前は「ダホメ王国」。18世紀には奴隷貿易で栄えた王国。

そんな地域で「援助に頼らず努力しろ」という「ことわざ」が古くから残っているはずがない。
 
 

やっぱり国際教育・援助でよく使われる言葉だから、ヨーロッパ諸国の誰かから学んだ言葉だと想像に難くない。

インドのことわざ説

インドも歴史が長いから語源や発祥元として使われるが、疑ってかかったほうが良い。

で、疑わなかったのは大学教授。え?疑うのが仕事じゃないの?

 
 

インドのことわざに「貧者に魚を与えるな。魚の釣り方を教えよ」というものがあります。
魚を与えてもそれを食べてしまえば一時的に飢えをしのぐことはできます。しかし、これでは貧困の解消という問題解決にはなりません。

原田 勉 : 神戸大学大学院経営学研究科教授

PDCAがAI時代では「オワコン」な根本理由 | リーダーシップ・教養・資格・スキル
インドのことわざに「貧者に魚を与えるな。魚の釣り方を教えよ」というものがあります。魚を与えてもそれを食べてしまえば一時的に飢えをしのぐことはできます。しかし、これでは貧困の解消という問題解決にはなり…

 
 

因みに、インド人に聞いてみたら「インドの言葉じゃないだろう」という返答だった。

ヒンズー語で調べたけど、よく分からず……。

 
 

ソースを出せ。

で、見つけた文献

ここからようやく独自調査となる。

カール・マルクス説?

スペイン語で経済学者・哲学者のカール・マルクスの格言が出てきた。

Véndele un pez a un hombre, y comerá un día. Enséñale a pescar y arruinarás una bellísima oportunidad de negocio (Karl Marx)

「英語】
Sell a man a fish, he eats for a day, teach a man how to fish, you ruin a wonderful business opportunity(Karl Marx)

【日本語】
人に魚を売れば彼は一日食べる事ができる。人に魚の釣り方を教えれば、素晴らしいビジネスチャンスを台無しにする(カール・マルクス)


 

おお!ついに来た。

マルクスは1883年にこの世を去っているので、どの語源より古いことになる。

 
 

と思ったが、後の時代の人間の創作物だ。

a missing piece , even if it had not yet been thought of – Renzo Piano ‘ s Auditorium . Catch a man a fish , and you can sell it to him . Teach a man to fish , and you ruin a wonderful business opportunity . Karl Marx II LETTER Plan of Big Hall

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チョッおま、ふざけるなよーーー!

管子説(1955年)

少し古い文献を見つけた。

Twenty-six centuries ago, the Chinese philosopher, Kuan-tzu, said:
“If you give a man a fish, he will have a single meal;
If you teach him how to fish, he will eat all his life.”

26世紀前、中国の哲学者、管子は次のように述べています。
「あなたが彼に魚を与えるならば、彼は一食を得るでしょう。 あなたが彼に魚の捕り方を教えるなら、彼は一生食べていけるでしょう。」

Front-end Management(作成者: Kochersper、 William E. Kinslow、 Edward M. Harwell · 1955)

Google Books

It was by a Chinese philosopher who died about 2500 years ago. His name was Kuan Tzu.
Kuan tzu said “If you give a man a fish, he has one meal, If you tach a man how to fish, he can feed himself for life”

それは約2500年前に亡くなった中国の哲学者によるものでした。彼の名前は管子でした。
管子氏は、「人に魚をあげれば一食、釣り方を教えれば一生食べられる」と語った。

Proceedings of the Annual Convention(作成者: Georgia State AFL-CIO. 1957)

Google Books

 
 

そうかそうか、老子じゃなくて管子という人物の言葉だったのね。

どうりで「老子」の書籍探しても見つからないわけだ。

 
 

 

って、「管子」って人じゃなく書物だから!

 
 

 

具体的には「管子」は中国の春秋時代の斉の宰相「管仲(かんちゅう)」 の著と伝えられる書。

で、電子図書館「中国哲学書電子化計画」で探したけど、見つからなかったよ。クソ。

中国ことわざ説(1931年)

中国語で溯れたのは1931年。

The Catholic Church on the Northern Indiana Frontier, 1789-1844 第 12~14 巻(作成者: William McNamara · 1931)

所以,尤其要注重教给学生科学的学习方法,正所谓,授人以鱼,不如授人以渔。 4.要注重知识的工具性,增加活动课和实践课的比重,培养学生的动手能力和实践创新能力据有关报道,我国在国际奥赛上的优势都是在理论项目上,而在实验项目上的成绩却远 …

私たちは学生に科学的な学習方法を教えることに特に注意を払う必要がある。

ことわざにあるように、人々に釣り方を教えることは人々に釣り方を教えることよりも悪い。

Google Books

他のサイトは1961年に一般的になったと書かれているので、これは古い。

 

この時点で「ことわざ」だと言ってるので、やはり1800年代の文献を探す必要がある。

古いことわざ説(1888年)

1888年のAgricultural Experiment Station(農業試験場)「Publications. Entomology 第 25 巻」に次の文章を見つけた。

During the year, the college produced a new half-hour television film entitled Teach a Man to Fish – the story of challenges in international agriculture and of the rewards that follow.
(Title comes from the saying , ” If you give a man a fish you feed him for a day , if you teach a man to fish you feed him for a lifetime . ” The film was first released to television stations , then made available through the Film Library to schools …

その年の間に、大学は「男に魚を教える」というタイトルの新しい30分テレビ映画を制作しました。これは、国際農業における課題とそれに続く報酬の物語です。
(タイトルは、「彼に魚を与えると1日、漁を教えると生涯にわたって食事を与える」ということわざに由来します。この映画は最初にテレビ局に公開され、その後、学校への映画図書館..。

Google Books

 
 

1885年の小説「ダイモンド夫人」が、ことわざの最も初期の英語の使用

と言うのが世の中の通説だ。

 
 

確かに1885年は文献としてはもっとも古いが、その3年後に書かれた文献が「これは ことわざ」だと言っている。

という事は、

 
 

1885年より古い文献は見つからないが一般的に知られていた「ことわざ」であり、小説「ダイヤモンド夫人」はその「ことわざ」を引用しただけ

 
 

と……言えないかなぁ。

状況証拠でしかないけどさ……。

まとめ

結局「Quote Investigator」を超えた文献を見つけることは出来なかった。

 
 

 
 

「Quote Investigator」には加えて次のように書いてる。

 

In 1911 a collection of essays called “The Common Growth” by M. Loane was published, and an “oft quoted saying” was included. This version did not use words such as “feed”, “eat”, or “hungry” to refer to the consumption of fish, but it did state that the status of the fisherman would be improved for “all his life”:

1911年に、M。Loane による「TheCommon Growth」と言うエッセイ集が出版され「よく引用されることわざ」が含まれていた。このことわざには「feed」「eat」「hungry」のような単語は使用していないが、漁師は「all his life」とは書かれている。

 

だけど、私の発見した1888年の文章の方が現在の「ことざわ」に近い。

状況証拠ではあるけれど、1885年より前に今の文章とほぼ同じ言い回しの「ことわざ」が既に一般的だったんじゃないかなぁ……。

 

うーん、反証が弱い!

図書館にも何度か足を運んで20冊以上調べたけどさ……うーん、残念。

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