【Nature】人間も200年生きれる?クジラの「寒がり遺伝子 CIRBP」が鍵だった

ホッキョククジラ

 

200年以上生きて、ほとんどがんにならない哺乳類

 

本来は、巨大で長命なら、細胞分裂の回数も多く、がんのリスクは高まる。

ところが実際は逆だ。この逆説は長らく

 

ピートのパラドックス

 

 

として知られてきた。

 

しかし、2025年10月29日 Nature にて

 

この理由は、DNAの損傷を非常に速く正確に修復する能力にある

その中心的な役割を果たしているのが CIRBP(サープ:冷誘導性RNA結合タンパク質)というタンパク質

 

 

だと米ロチェスター大などのヴェラ・ゴルブノヴァ(Vera Gorbunova)教授らの研究チームが2025年10月30日、英科学誌ネイチャー電子版に発表した。

とうとう解明されたのだ。

 

Evidence for improved DNA repair in the long-lived bowhead whale
Denis Firsanov, Max Zacher, Andrei Seluanov, Vera Gorbunova et al.
Nature (2025) doi:10.1038/s41586-025-09694-5

Evidence for improved DNA repair in long-lived bowhead whale - Nature
Analysis of the longest-lived mammal, the bowhead whale, revealsanimproved ability to repair DNA breaks, mediated by high levels of cold-inducibleRNA-binding pr...

膨大な数の細胞の分裂・増殖を長年続けているのに、なぜ損傷したDNAによるがんが多発しないのか、この長年の謎の解明は人間の長寿への道の一歩。

CIRBPは本来、寒さから細胞を守るタンパク質だが、クジラでは進化の過程でアミノ酸が変化し、常に高レベルで作られるようになった。

 

CIRBPを生み出す遺伝子をショウジョウバエで多く働かせたところ、通常より寿命が延びた。

加えて強いX線を照射してDNAの2本鎖を切断する実験で生存率が大幅に向上した。

 

 

CIRBPはヒトにもあるが、構成するアミノ酸が一部異なる。

ホッキョククジラが特別な4つの理由

私たちの体は、呼吸しているだけでも1日に数万回もDNAが傷ついている。

若い頃はこの傷を直す「修復工場」がフル稼働しているが、年齢とともにその力は衰え、修復ミスが増えてくる。

この修復ミスが積み重なった結果が「老化」であり、致命的なエラーが起きたものが「がん」となる。

DNA修復が非常に優れている

クジラは2つの主要な修復方法(NHEJ:切れた両端を直接つなぐ、HR:正しい設計図を参考に修復)を、人間やマウスよりも速く、しかもミスが少なく行う。

結果、変異(遺伝子の間違い) の蓄積が極端に少なく、がんや老化の原因が抑えられている。

DNA損傷に対する耐性が非常に高い

実験で抗がん剤、放射線、紫外線などを与えても、クジラの細胞はほとんどダメージを受けなかった。

※ 人間の細胞の場合は同じ条件では大量に死ぬ

クジラの細胞は生き残り、修復も完了していた。

がんが発生しにくい仕組み

人間では通常、6~10個の遺伝子変異が積み重なるとがんになる。

クジラでは変異が非常に少なく、がんになるには理論上100個以上の変異が必要と計算されている(ピートのパラドックスを解決)。

鍵となるタンパク質:CIRBP

CIRBPは本来、寒さから細胞を守るタンパク質だが、クジラでは進化の過程でアミノ酸が変化し、常に高レベルで作られるようになった(他の哺乳類の100倍も多い)。

DNAが切断されると、CIRBPがすぐに傷口に集まり、修復酵素を呼び寄せる。

さらに「液液相分離(LLPS)」という仕組みで、修復に必要なタンパク質を一箇所に集めて「修復工場」を作り、作業を劇的に効率化する。

人間への応用可能性(論文内で実際に検証済み)

ヒトでCIRBP経路を高められれば、老化関連疾患や術後回復、移植時の臓器保護といった臨床場面で恩恵が見込める。

 

実際に、人間の細胞にクジラ型CIRBPを導入すると、DNA修復速度が上がり、変異や染色体異常が大幅に減少

つまりがんができにくくなった。

更にショウジョウバエにCIRBPを過剰発現させると、寿命が20~30%延長し、放射線耐性も向上した。

 

これらの結果から、

 

CIRBPを活性化する薬や遺伝子治療で、人間のがん予防や健康寿命の延伸が現実的に可能である

 

 

と示唆されている。

おわりに

研究チームは、人間でCIRBPを増やす方法として、将来的にはタンパク質そのものを薬剤として投与することなどを検討している。

またゴルブノヴァ教授は、ライフスタイルの変化の可能性について次のように言及している。

冷水シャワーを浴びるといったライフスタイルの変化も、(CIRBPの増加に)貢献するかもしれませんし、探求する価値があるでしょう。

 

 
 

死ぬまでの目標:「死なない事」の実現にまた一歩近づいた!

 
 

【未解明の内容】

  • 人でどれだけCIRBPを上げれば臨床的意味があるのか、至適“冷刺激量”や薬理的手段は
  • 修復を過剰に高めた場合の代償(例:異常修復の蓄積や腫瘍促進リスク)はないのか
  • 長寿効果の大きさ:寿命そのものか、疾病罹患や回復力など健康寿命のどちらに強く効くのか
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