年収に対し満足度は収束する。
2010年に公表された、プリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授とアンガス・ディートン教授(共に2015年にノーベル経済学賞受賞者)の分析結果によると
- 年収800万円までは幸福度が上がる
- 年収800万円を超えると幸福度に大きな変化は見られない
加えて内閣府が2019年、2022年に実施した
「満足度・生活の質に関する調査」
でも、アメリカの研究同様、やはり年収800万円程度を目安として年収が幸福度に与える影響が薄れていく結果となっている。
そこで
年収800万円が幸福度の限界点説
が生まれた。
これは転職サービス会社には都合の良い事実(給料でなく、やり甲斐で仕事を選ぼう)なので多く引用されている。
日本初のオルカン推奨者「橘玲」も、そのような文章を書いてる。
NVIDIA社員は給料が高いので激務でも退職者が少ない。
この結果だけでも、幸福の定義をどこに置くかにもよるが、収入の高さが一つのモチベーションになり収入に幸福度を感じる人は一定数いるんじゃない?
昨年2023年、ダニエル・カーネマン名誉教授はペンシルバニア大学のバーバラ・メラーズ教授らとともに、新たな研究を発表した。
年収の増加とともに幸福度の上昇傾向がさらに強まる
つまり自分が発表した研究結果は正しくなかった(正確でなかった)
と自ら訂正しているww
※ カーネマン名誉教授は新しい研究が、収入と幸福度の関係についての「より包括的な理解」を提供している……と語っており「誤り」だとの記載はなし。
今回は、この論文を深堀りしてみる。
幸福度測定方法
論文では2種類の測定方法を利用しているので、先に紹介しておく。
キャントリル・ラダー(Cantril Ladder)
世界幸福度ランキング(World Happiness Report)の測定などでは
「キャントリル・ラダー(Cantril Ladder:キャントリルの梯子)」
という評価方法を利用している。
測定法はシンプルな設問で「自分にとって最良の人生から最悪の人生の間を10段階に分けたとき、いま自分はどこに立っていると感じるか」について答える。
「ハシゴを想像してみてください。ハシゴの各段には数字が振ってあります。ハシゴを上るにつれて数字は大きくなっていきます。最下段は0で、最上段は10です。最上段はあなたにとって最高の人生で、最下段は最低の人生です。今現在、あなたはハシゴの何段目に立っていると思いますか?」
© そもそもWell-beingとはなんでしょうか?/PERSOL HOLDINGS CO.
これは今や人の幸せを測る現在の国際標準。
EWBスコア(Experienced Well-Being)
感情的幸福度と呼ぶ。EWBスコアは、以下の2つの要素から算出されている。
- 1. キャントリル・ラダー
- 0が最悪、10が最高の人生として、現在の人生を評価させる
- 2. 日々の感情評価
- 前日に感じた肯定的感情(楽しみ、幸せなど)
- 前日に感じた否定的感情(悲しみ、怒りなど)
EWBスコアは、この2つの要素を以下の式で組み合わせて算出される。
EWBスコア = キャントリル・ラダースコア + 肯定的感情スコア – 否定的感情スコア
つまり、キャントリル・ラダーだけでなく、前日の具体的な感情体験も加味されている。
2023年の研究結果「収入と感情的幸福:矛盾の解決」
まず「感情的幸福度(EWBスコア)」でアメリカ合衆国居住者を次の3種類に分類した。
その結果、「感情的幸福度(EWBスコア)」の分類に基づいて幸福度の上昇に差異が生まれた。
最も不幸な15-20%の人々
2010年の研究結果と同様に年収1400万円(10万ドル)以上では幸福度の上昇が止まる。
中間層の人々(30%から50%)
幸福度は対数収入とほぼ線形の関係を示す。
最も幸福な30%の人々(特に85%以上)
年収1400万円(10万ドル)以上で幸福度の上昇が加速する。
おわりに
論文の主張は、収入と感情的幸福度の関係が一様ではなく、個人差があるということだけ。
個人的な見解を述べれば
単に収入を増やすだけでは、根本的な不幸は解消されない
ということ。
収入以外の生活要因を改善し、感情的な基盤を整えることが先決。
そして、その上で収入の増加が更なる幸福度の上昇をもたらす可能性がある。
つまり思いやりのない夫と結婚した妻は、幾ら収入が増えても心は満たされないって現実は変わらない……。