今からちょうど100年前の1920年(大正9年)、ジャーナリスト(国粋主義者)の三宅雪嶺が主宰する雑誌『日本及日本人』が「百年後の日本」を特集しました。
100年後の日本について論じたのは、大正のオピニオン・リーダー島崎藤村、菊池寛、室生犀星など現在でも著名な作家から、大学教員や地方都市の公立学校の教師、また新聞社や出版社の社主、宮司、軍人、料亭の主人など300人を超す人々です。
この記事の「ねほり度」 ★★★★☆(独自調査が含まれ、一般人であれば知らないレベル)
「百年後の日本」は、1966年、2002年、2010年と何度か復刻されています。
1966年の「編集後記」には次のように書かれています。
未来社会を考察する意義は、人間の欲望を最大限に解放し(常識的予想)、これを建設的な人間的目的に誘導する道を探求する(科学的予想)ところにある。未来社会を語ることは、現在における自らの選択に責任をとることである。
この書物を引用して「百年後の日本」はどうなったか?の答え合わせをしている記事は多い。
なので、私はあまり引用されていない凡ネタの人々に焦点を当てます。
彼らは百年後の日本人に内容が紹介され続けているとは夢にも思っていないだろう・・・。
屁理屈で予想しなかった人々
いわゆる空気読めない系。
軽く受け流す人達
なぜか予想しなかった人々が美化されてCM(東京エレクトロンCM「百年後の日本」)となっています。
努力の積極的効果・・・・小説家(島崎藤村)
もう百年も経ちましたら、私達が今日まで苦しんで来たことで何一つとして無駄になったものは無かったことを積極的に証してくれるような時代も来るだろうと思います
百年だけの善い芽・・・・洋書家(岸田劉生)
拝啓、御尋ねの事、到底豊富なる想像力を以てしても御答え難かしく、しかし進化の法則により、外面はとにかく、人類的に百年経てば百年だけの善い芽の大きくなっていることだけは断言致し候、但し日本に限らず候
幸福になるか疑問・・・・小説家(菊池寛)
自分が生きて居そうもない百年後の事などは考えて見たことがありません。ただ然し、人間が之から先、だんだん幸福になって行くか、何うか大に疑問だらうと思います。人類の真の幸福と云うものは、社会改造論者などの手でヒョイヒョイと生まれるものでしょうか
バカにする人
ちびちびと企画者を馬鹿にしたような文章を返答した人もいる。
執筆された書籍等は素晴らしいが、このような手紙は性格が滲み出る。
生前なら同じ職場で働きたくない人が多かった。
人間と高等猿との関係・・・・理学博士(石川千代松)
百年後の日本、はどうなるか?
苦しむ日本で、今の様な言語を使ひ、今の様な文字や文章を使つて居たならば、遅くとも百年後には、欧米国人と日本人の関係は今日の人間と高等のサルとの関係のようになるでせう!
考える事を放棄屋
考える事を放棄した人達。文豪や軍人、議員に多い・・職種的に日本を作るのが仕事なのだから駄目だろう。
- 想像したる事なし・・・・・海軍少尉(松村純一)
- 神も想像し難し・・・・・・貴族院議員(加藤恒忠)
- 想定思ひも寄らぬ・・・・・法学博士(中村進午)
- 夢想だも及ばざる処・・・・吉田神社宮司(橋本順行)
- 電車の事のみに没頭・・・・東京市電気局長(井上敬次郎)
- 推察すること覚束なし・・・早大教授(紀淑雄)
- 明日は明日の事・・・・・・文学博士(加藤玄智)
- 唯一つ確かなこと・・・・・我等社(長谷川如是閑)
- 科学は予言の必要なし・・・札幌高商教授(大西猪之介)
- 老生の如き古物・・・・・・文学博士(関根正直)
- 目下の虚像想致兼候・・・・陸軍大尉(仁田原重行)
- 今の日本でないこと・・・・法学士(櫛田民蔵)
- 仮定の上に仮定・・・・・・若宮卯之助
- 害あって益なし・・・・・・洋書家(三宅克己)
- 之に答うるや悲し・・・・・和田三郎
- 実際的想像出来ず・・・・・山田孝道
- 実は架空の論・・・・・・・保科致堂
- 空想を語るは無益・・・・・東京府会議員(伊藤仁太郎)
- 余りピンと響かぬ・・・・・小説家(藤森成吉)
- 鬼もあきれん百年の後・・・共古(山中笑)
- 公言を憚(はばか)ります・巌谷小波
- 近来老耄して・・・・・・・実業家(奥田正香)
- 百年の大計は無意義・・・・第一高等学校教授(速水滉)
- 危うきを避く・・・・・・・文学士(生田長江)
- 永久に隆昌なるべき筈・・・松山高等女学校長(由比質)
- 寧ろ現代を考ふ・・・・・・学習院教授(山本良吉)
- 想像もつきません・・・・・小説家(宇野浩二)
- 答案の勇気無之・・・・・・医学博士(須藤寛三)
- 無責任なる想像・・・・・・海軍中尉(肝付兼行)
- 非常に興味ある問題・・・・東京朝日新聞社(杉村楚人冠)
- 貧弱なる想像力・・・・・・海軍中将(布目満造)
- 百年は愚か・・・・・・・・会計検査院第二部長(平塚定二郎)
- 激忙を極め候為・・・・・・法制局長官(横田千之助)
- 妄想と存候間・・・・・・・実業家(藤田四郎)
- 余り遠過ぎて・・・・・・・工学博士(阪田貞一)
- 回答の資格なし・・・・・・医学博士(吾妻勝剛)
- 申し上げられませぬ・・・・理学博士(大幸勇吉)
- 別に意見思想無之・・・・・鹿児島県知事(橋本正治)
- 公務多忙の為め・・・・・・長野小県蚕糸校長(三吉米熊)
- 時勢達観の明なし・・・・・実業家(南方常楠)
- 興り得ざる処・・・・・・・大牟田市(厳谷忠順)
- 想像に及ばざる処・・・・・仙台市長(山田揆一)
- 隆盛ならんことを希望・・・彫刻家(新海竹太郎)
- 曰くわからぬ・・・・・・・小説家(伊原青々園)
- 見当附(つ)き不申(もうさず)候・・・・法学博士(岡田朝太郎)
- 分かりかね候・・・・・・・前衆議院議員(樋口龍峡)
- 想像いたし兼ね候・・・・・洋書家(安井曽太郎)
- 公表する程の論説無之・・・広瀬神社宮司(大井田斉)
- 推想つき兼候・・・・・・・医学博士(足立捨次郎)
例えば次のような返答をしています。
時勢達観の明なし・・・・・・実業家(南方常楠)
時勢に對(たい)する達観の明なき小生は、到底、壹百年後の日本を、想像するに適當(当)なりとも覚えず、貴問に答うる能はざるを遺憾と致候
非常に興味ある問題・・・・東京朝日新聞社(杉村楚人冠)
折角の御尋で而(しか)も興味ある問題とは存じますが、日本に今少し言論の自由が確実に保証されない以上私は残念ながら此(この)問題に對(たい)する答滸を拒絶いたします。
「どうなるか?」ではなく「どうするか?」
いつでも存在する屁理屈屋。ちょっと意識高い系な人に多い。
なら「どうするか?」を考えた上で「どうなっているか」を語れば良いだろう。
- 他力的では駄目なり・・・・陸軍中尉(堀内文次郎)
- どうするかが問題・・・・・文学博士(建部遯吾)
予想してないが面白い返答
今人は一人もいない・・・・・詩人(河井醉茗)
河井醉茗といえば小5国語授業にも出てくる「ゆづり葉」の詩で有名です。
百年後には今生きている人が一人もいません、百年後の日本には今生きている人とは、まるきり別の新しい人が生きています、私はただそれが面白いと思います。
うん・・・・何一つ語ってないけど、ユーモアがあって詩人っぽくて良いです。
ただ「ゆずり葉」は未来を子どもたちに語る詩だけど、結局未来の事は何も考えてなかったのね。
このような返答は「長谷川如是閑」など3名程度いました。
天ぷら後の茶漬・・・・長野県立諏訪高女校長(土屋文明)
(前略)ただ金看板の愛国者が段々少なくなり、大学が口語体の講義を知て踏落しの詩も作れない学士をドシドシ出す危険を憂慮する志士はなくなっても、庶民は案外奉平で天ぷらの後の茶漬をサラサラと食うだろうと思えば少し愉快だ。
世間を小馬鹿にしつつ、ネタで締める。この人は現代文化でも生きていける。
日本の大敗北を予言
当時から日本敗戦を考えている人は存在しているよね・・・アホな政府に従うって怖いな。。
侵略主義と日米戦争・・・・法学博士(末広重雄)
もし現在の如く、我が軍閥が国論を無視して侵略主義を行う時は、遠からず日米戦争を惹起し、その勝敗いかんによって、日本の百年後の運命が定まることになる。勝てば英国と並ぶ大国となり、いよいよアジアの主人たるを得るけれども、負ければ日清戦争前の小日本に成り下がることになる。しからば、来たるべき戦争において日本に勝算ありや。残念ながら私は結果を危ぶむ
袋叩きに会います・・・・早稲田大学講師(矢口達)
日本はまだ醒めきらないのです。寝床の中でやッと背伸びをしているぐらいです。強者に跪拝し、弱者を陵辱して悦んでいます。ヨーロッパの真似をして威張っています。さァ、百年の後? その間に、一度は崇め奉っているヨーロッパ、アメリカから袋叩きにあいます。そこでほんとうに目を覚ます。覚めなければ叩き殺されて滅亡するばかり。覚めればアジアの解放を完成して、東洋の心臓くらいになれるでしょう
善くなる前に悪くなる・・・・詩人(山本暮鳥)
何よりもまず、このままでの帝国ではなくなるでしょう。日本人の性格から考えてみて、現在のロシアや支那のようになることはあるまいが、とにかく一度外国と大戦争があって、それによって粉微塵に蹂躙されるでしょう。そしてはじめて真に目覚めるでしょう
自論で予想した方々
上記以外の多くの方々が自論を展開して下さっています。
また挿絵が入っており絵師は「大野静方」となっています。
火熱問題の百年後・・・・石橋絢彦(いしばし あやひこ)
最初の一人目は日本の武士(幕臣)で土木技術者。工学博士の方でした。
- 石炭の盡期(尽期:じんご)
- 石炭を油に化する方法
- 貯水式水電
- 風力の利用
- 潮昇の利用
- 太陽熱の利用
女性の活躍を予測
女性の活躍・貞操感の低下(門田嘉一郎)などを記載している人は多かったです。
ちなみに、「解放された女」の画中の「女腰弁」とは、腰に弁当をぶら下げて働くこと。また、男も家事を担う現状をきっちり予測されています。
明るい女が殖える・・・・小説家(室生犀星)
すべての女性が食物の進化(主として肉類などから)に従って、非常に美しく繊細(デリケート)な明るい女が増えるだろうと思います。肉体的にいえば、やや小柄に、だんだん西洋化された皮膚の細かい傾きを予感させます
勝手放題なだろう話・・・・一高教授(大島正徳)
第一高等学校(現・東京大学教養学部)の教授で哲学者の予想は、かなり当たっています。
うそがまこととなるためしもあるので、勝手放題に「だろう話」をいえば
- いわゆる普通選挙はもちろんのこと、婦人の代議士などが出てくるだろう
- 大学はもちろん、男女入学ご勝手次第ということになろう
- 華族制度はなくなり、何々家という旧家の名前は残るであろう
- 義務教育は十年に延長され、かつ、好みと能力に応じて、いかなる子弟も高等教育を受けうるようになるであろう
- 都会では家族が下宿住まいをするもの多く、西洋式の共同建築が多くなるであろう
- 電車は汽車に変わり、飛行機は有力の配送・交通機関となるであろう。飛行機で富士登山をするものなどがあるだろう
- ローマ字が普通に用いられるようになるであろう
- 海が生産上に大いに利用されるであろう
- 学者・科学者が政治上に有力な役目をもつようになるであろう
- 生活に直接必要のことは国家直営ということになろう
女子の大臣大学総長・・・・法学士(石橋忍月)
女子の大臣もあれば大学総長もある、女子の次官局長もある。
空中移動・飛行機の未来を予測
空に永遠の憧れを持つのは今も同じ。「空中警察が出来て、巡査が巡空する」というものもある。
飛行機六百人乗・・・・・・敷津林傑
「米友協会」という組織の会員だったようです。
- 日本の領土がフィリピンや現在のロシアの一部まで広がる
- 80~90歳まで生きることができるようになる
- 日本人口1億8000万人
- 航空機1機当たりの旅客数を「200人乗りから600人乗りになる」
- ロンドンまで2週間で往復
- (燃料としての)石炭と薪まきは不用となり、太陽の熱を利用する
- 郵便と電信はなくなり、皆電波にて通信する
斯(こ)うもならうか・・・・・・・上條正人
- 空中実用時代来る
- 河川の改修、電信電話の発達
- 土地の大整理耕作物の指定
- 燃料問題解決、電力応用時代
- 社会組織の改造、雇用関係の確立
- 衣服の改良 婦人労力の転化
- 女権の伸長、結婚制度の変化
- 人類進歩は共同の力 来る可(べ)き人種戦争
- 覚(さ)むれば黄粱(こうりょう)一睡の夢
火星への中央停留場・・・・萬朝報社(石川半山)
日刊紙「萬朝報(よろずちょうほう)」の記者のようです。
- 世界が統一され、中央政府ができる。日本人は78億人に
- 火星との交通が開けて、富士山は火星に向かう飛行機の停留場となる
これは次の100年後でしょうね。
科学技術の発展を予測
「テレビ電話」や「セグウェイ的な乗り物」などの予測が100年前には存在していました。
義首などの一見難しそうな技術も入っていますが、「目的を達成」する事に焦点を当てれば、iPS細胞、脳の情報をデジタル化・保存など近いものも出てきています。
将来的には自分が好きな顔が選べるようになったり、好きな能力を持った子供を生んだり、表面的にも細胞的にも老いや白髪知らずな時代も来るかもしれない。
・・・と色々な挿絵は書かれているが、実は本文の中で科学技術に関して詳細に記載している人は誰もいない。
この挿絵のネタは誰が考えたのか・・・。
船酔をしない薬・・・・・・洋書家(中澤弘光)
船酔いをしない薬が完全に出来、航海が自由になれば、百年後の世界の理想郷は桜咲く日本帝国の春であり、富士山も京都奈良も、世界的公園になるかもしれない、勿論名所遺跡の保存も改良も立派に行き届いて、もし軍艦が琵琶湖を横切る様になろうとも、日本固有の風景をぶちこわす様な国民ではなくなるだろうと思う。
文化の変化を予測
文化を予測した人々は多いです。
図だけですが、100年前に「料理屋の時間制限」のように回転率を含めた効率化を飲食店ビジネスの要と見抜いていた慧眼は素晴らしいです。
二十一世紀・・・・・・実業家(安川佐次郎)
他のサイトでも紹介されているが、箇条書きで分かりやすい書き方をされている方です。
皇室
- 皇室の離宮は1つ2つを除いて民間に下付され、公園になる
- 両陛下が民間の公会堂などに行幸啓される
- 宮中顧問官、錦鶏間祗候などの役職が廃止
- 四民平等が徹底され、皇族が旧特殊部落で慈愛の言葉を発せられる。爵位なども全廃
軍、警察
- 巡査の帯剣が廃止され、軍人も平素は帯剣しなくなる
- 徴兵制度が廃止される
- 陸軍省、海軍省、参謀本部は廃止され、軍務省に統一される
- 陸軍幼年学校、士官学校などが廃止され、帝国大学に戦術科が置かれる
- 海軍の巨艦主義は消え、陸海とも航空部隊が編成され、師団数が減る。消えた師団跡地は公園や文化施設に
国家形態
- 家長制度は廃され、18歳で男女とも選挙権を得る
- 貴族院が廃止され、一院制の下、議員は毎年改選される
- 総理大臣は「総長」、大臣は「省長」と呼ばれ、2人の女性省長がいる
- 男女とも議員は人格が向上しており、議場は静粛である
- 府県知事は廃止され、市長・町長・村長・戸長が選挙で選ばれる
社会制度
- 死刑は廃止される
- 土地は公有となる
- 裁判官は公選される
- 枢密院は廃止される
- 出産率が低下し、育児・救民施設が全国に200カ所できる
- 政府の専売事業や鉄道院は廃止され、官業は試験場と郵便などごくわずかになる
- 市町村に教示所ができ、犯罪が激減。ただし、世界一だった日本の監獄の質は悪化する
税金・財政
- すべての国税は廃止され、紳士税という人頭税と、関税のみ残る
- 地方税は、種類が減るがそのまま残存
- 住宅以外の遺産相続は禁止される
- 国家財政は5億円を超えないが、文化公債が発行され、債務が150億円に達する
- 大規模な軍縮により、国富が増大し、対外債券は350億円
産業・技術
- 海草や植物から糸を作る会社が20を越える
- 東京~下関間に空中電車が架設される
- 関門海峡、津軽海峡に海中トンネルとロープウェーが作られる
- 琵琶湖の沿岸が埋め立てられ、水害が増える
- 日本郵船と大阪商船が合併し、航空会社になる
文化
- 幼稚園と中学が廃止され、10年で卒業し、実務に就く。手工と漢学は廃止
- 教科書はエスペラントで書かれ、全国共通のものと地域限定版に分かれる
- 新聞から講談ものが消え、新聞社主催で「漢字追弔祭」が行われる
- 新聞は朝夕4ページとなり、雑誌も薄いものが歓迎される
- 衣服は男女とも筒袖丸袴になる
- 女性学者や女性発明家が著しく増え、男を圧倒
- 米の生産が減り、田畑の多くは工場地となる
- 豚が主食となり1年に2億頭生産される。牛馬の多くは耕作用になる
- 社寺は大合併が行われ、有名な社寺のみ保存される
- 日本の仏教が統一される
- 日本海トンネルの開鑿中に古代人の人骨が発掘され、朝鮮大学の鑑定の結果、100万年以上前の人骨と判明
- 世界で使われる新しい暦が日本から発表される
- 鹿児島、山口、岩手は著しく知識が低下する。これは過去の公私横暴の結果である
まとめ
挿絵の予想が素晴らしかったので書籍を手に入れましたが、挿絵にに描かれている文章は見つかりませんでした。
まともに予測している人は300人中数名しかおらず、書籍自体はなんだかな・・・というモノでした。
逆に否定的な人も含めて書き残しているところも素晴らしいです。
また、100年前にここまで未来を予測できるのであれば、次の100年の予測もある程度は当てれると思われます。