西郷隆盛(南洲)二行軸(掛け軸)の真作・贋作を画像処理を使い判断

祖父母の実家の床の間に

 

これは西郷隆盛の掛け軸だ

 

と幼少期から親に言われて続けた書が飾ってある。

大学生の頃に調査しようと試みたが、知識不足で落款すら判別できなかった。

なお、掛け軸の状態は何年も床の間に飾っているため「シミ」や「焼け」があり良くない。

調べてみると山岡鉄舟、勝海舟、徳富蘇峰、後藤新平、西郷隆盛……明治偉勲の書は人気があり、贋作は無論のこと、多くの印刷も出回っていた。

また西郷隆盛の書の真贋判断は難しいらしい。

 

ちなみに「なんでも鑑定団」の西郷隆盛の真作の評価額は220万円。

西郷隆盛の書|開運!なんでも鑑定団|テレビ東京
西郷南洲の真筆に間違いない。「世上」の「世」の字は大きく「上」の字は小さく、またその後に「塵」という字が大きく書かれているように、リズムが非常に美しく出ている。これが西郷南洲の書の良さ。印がないが、これは印を持っていない時に書かれたためで…

逆に贋作の評価額は5,000円。

西郷隆盛の掛軸|開運!なんでも鑑定団|テレビ東京
中国明時代の馬文升という政治家の詩が出典。「世間を渡る道というものは羊の腸のように曲がりくねっている。名を上げるということはカタツムリの角の上くらい狭い事ではないか(それほどつまらない事ではないか)」という内容。依頼品の書には流れがない。…

本当に真贋が知りたければ骨董品専門店で大体20,000円~50,000円ぐらい払えば鑑定してくれる。

勿論、私には責任を持てる真贋は判断できないが、今まで培った「古文書読解技術」や「画像処理技術」を使えば一次分類程度は可能じゃないの?

掛け軸の書の意味は何か?

書かれている文字は

 

風来疎竹かぜそちくにきたる 風過而竹不留声かぜすぎて たけにこえをとどめず

 

これは中国明代末期の古典である「菜根譚さいこんたん」の前集83項に書かれた言葉。

風がまばらな竹やぶに吹くと、そのとき竹の葉は風に吹かれて鳴るけれども、過ぎてしまえばもとの静けさに戻るということで、一度の失敗が人生を台なしにすることなど、ありえないという趣旨。

 

「菜根譚」は坂本龍馬、吉田松陰、西郷隆盛など、幕末の英傑の人生指南の書であり、儒教・仏教・道教の三教に根差した書。

「中国に『菜根譚』あれば、日本に『言志四録』あり」ともいわれており、西郷隆盛が書したとしても違和感はない。

 

そして、最後に書かれている「南洲」というのが「西郷隆盛」を意味する。

西郷隆盛の「西郷南洲」とは何?

西郷隆盛の伝記は小学校の教科書を見れば書いてあるので省略。

幼名は小吉、通称は吉之介、善兵衛、吉兵衛、吉之助と順次変更。

 

号は南洲なんしゅう

雅号がごう

文人・画家・書家などが、本名以外につける風雅な名のこと

掛け軸の真贋の見分け方(初心者向け)

そもそも真贋とは何か?

種類 内容
贋作 他人が作者名を偽って流通させる美術作品。人を騙すことを前提として作られる
模写/模作 自分の技術を上げるため、もしくは原作をリスペクトする気持ちを表すために作られる美術作品
複製 印刷・版画・拓本・リトグラフ・工芸作品のこと。レプリカ
真作 まちがいなくその人の作品であること(鑑定機関で判定)

模写の制作者が本物と偽って販売することは基本的にない。

以下、知ってる限りの真贋の判別方法を記載する。

Step1)紙質が楮紙か確認する

明治偉勲の書は、まず印刷か否かを確認する。

多くの印刷を「真作」と勘違いしていることが多くある。

真作は基本的に「こうぞ紙」に書かれている。

印刷や模倣品はパルプ紙などの紙質が多いがパルプ紙でも100年以上前からあるので要注意。
和紙 洋紙
原料 こうぞ・三椏・雁皮 パルプ(針葉樹・広葉樹の幹を原料としたもの)
紙質 表面は荒く不均一 表面は滑らかで均一
繊維 繊維が長く強靭 繊維が短い
量産 不向き 容易
価格 高価 安価
楮紙こうぞがみ穀紙こくし/かじかみ

楮の樹皮繊維を原料として漉いた紙のこと。 麻紙や斐紙に比べて美しさには劣るとされているが、丈夫であったために重要な公文書や経典・書籍など長期間の保存を要する文書の用紙として用いられて、長く和紙の代表的な存在とされてきた。
明治以後には三椏紙とともに日本の和紙の生産の主力となったが、第二次世界大戦後の和紙の衰退とともに生産量は減産。

また重なりには濃淡なければ、印刷物の可能性が高いが、我が家の掛け軸は印刷ではなさそうだ。

Step2)入手ルートや技法からも判断

「近所の蚤の市で見つけて購入したもの」

「大企業の社長さんから、お礼にといただいたもの」

などのエピソードがあれば、真贋の決め手になることがある。

 

残念ながら入手経路はよく分からない。

Step3)付属品に手がかりがある場合も

共箱ともばこが付属していれば、それが真贋の決め手になることもある。

種類 内容
共箱ともばこ 作家が作品の内容を記した「箱書き」のある箱。蓋の甲や裏に作品名、作家名が記されており共箱が無い作品の価値は半分以下
鑑題箱かんだいばこ識箱しきばこ極箱きわめばこ 作家の親族・後継者、鑑定者が、本人の作品であると認定した箱。箱には鑑定・認定した人の箱書きがあり、評価としては、共箱と同等の扱い
合箱あいばこ/あわせばこ 本来の箱ではなく類似した別の箱に収納されている箱。価値のありそうな箱だが実際は作品とは無関係

因みに我が家の掛け軸は「合箱」……だと思う。落款が無いし字体が本人と違うかも。

西郷南洲書 二行軸

Step4)真作との筆跡鑑定

「印刷物ではない」のであれば「真贋」判定のために「筆跡判定」が有効だ。

「南洲」の筆跡を他の真作と比較してみた。

 

筆跡鑑定人は文字の「配置」「筆圧」「筆順」「偽筆」の4点に注意しながら鑑定を進める。

素人には……全然分からない。

対象の「南」の文字の丸みは、真作と比較して細い気がする……が決め手にかける。

 

本当は雅号ではなく他の文字で比較したほうが判別しやすいと思うが同じ漢字が真作に見つからなかった。

雅号は徹底的に真似る練習してるだろうしね。

Step0) 落款(らっかん)や署名による判断

模写かを判断する上でもっとも確実な方法。最後に持ってきたが、まず落款らっかんを調査する。

 

© こちら葛飾区亀有公園前派出所/秋本治(88巻:究極の贋作の巻)

 

落款らっかんは、書や日本画に制作者が署名・押印すること、及び押印された印のことを指す。

落成款識らくせいかんの略語。

また、「款」は陰刻(文字の部分を彫ること)、「識」は陽刻(文字の部分が浮き出るようにその周りを彫ること)を示す。

 

西郷隆盛は生涯で多くの詩をつくり、また日本や中国の先人の言葉を残している。

また前述通り西郷隆盛は「南洲」という雅号と、その名が刻まれた落款らっかんを使用している。

そして西郷隆盛の落款らっかんは元号事に整理されており、落款が記されていない書の年次比定にも有効だ。

名称 時期 冠帽印 氏名印 号印
第一印 明治2,3年頃まで 猛虎一聲山月高 藤隆印永 號南洲
第二印 明治3,4年頃 猛虎一聲山月高 藤武雄印 南洲
第三印 明治4年後半から7年前半まで 獄中佳恵及毛公/皇天后土知 藤隆盛印 南洲
第四印 明治7年後半から 猛虎弐聲山月高 藤氏隆永 南洲
第五印 明治8年5月頃から 貴天生 隆盛之印 號南洲

例えば我が家の書では「明治4年後半から7年前半まで」使用したと推定される「獄中佳恵及毛公」の冠帽印かんぼういん

これは近似しており真贋判定には決め手にかける。

 

次に氏名印と号印。

こちらも「明治4年後半から7年前半まで」使用したと推定される「藤隆盛印」「南洲」の落款を利用している。

真作と比較してみた。

幾つかの相違があるね。例えば朱文白方印「南洲」の「洲」は真作と比べて形が違う。

 

えっ?よく分からない?

この辺りだよ?

 

情報技術屋なので画像類似度を確認してみた。

【最小二乗法による類似度】 35.48%

 

類似度は0~100%で示し、全く同じ画像を入力した場合の類似度は100%。

結論として真作の落款とは異なるものと判断。

ようするに素人意見だが実家の西郷隆盛の書は

 

贋作

 

と考えられる。

異論は認めるのでアドバイス下さい。

おわりに

「古文書」はよく調査するが「掛け軸」の真贋に関する眼は全く素人だ。

ただし、情報技術を駆使すれば プロの差は多少は埋めれないのかな?AI使ってさ?

 

なお価値や値打ちは興味無いから知らない。真贋だけでなく幾つかの要素で決まる。

  • 01)その作者のものに間違いないものなのか(真贋)
  • 02)絵の場合は、何が描かれているのか(画題)。茶道具・工芸品については、その作品が湯飲みか、茶碗か、花瓶かなど。
  • 03)水墨か着彩か(そのほかの技法か) ※絵の場合
  • 04)出来映え(粗画か密画か、凡作か傑作か)
  • 05)いつ頃作られたものか(制作年代)
  • 06)大きさ、(絵の場合は)紙本か絹本か(形状)
  • 07)保存状態は(折れ、シミ、キズの有無)
  • 08)表装(時代表装か改装か) ※掛け軸の場合
  • 09)箱の有無およびその状態(箱調子) ※掛け軸、茶道具の場合
  • 10)箱書き(鑑定書)
  • 11)伝来、その他

 

なお西郷南洲の書は真贋を考察しているアマチュアのブログが詳しく大いに参考にさせて頂いた。

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